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「起業家社会」の経営学

地域からイノベーションを生む、コミュニティの要件──均質性と多様性が併存する場の提供とは?

第3回

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 前回は、「イノベーション」を起こす人に共通する思考方法を示しながら、「知覚する力」や「変化を察知し、機会として生かす考え方」の重要性について述べました。「起業家社会」に不可欠な経営スキルを解説する本連載の第3回(今回)は、都市への一極集中や地域間格差が叫ばれる中、「地域」から生まれるイノベーションの可能性と、それを促進する「コミュニティ」の条件や期待される役割について、実践者たちの声を辿りながら解説します。

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経済学者シュンペーターの“もうひとつ”の予言

 オーストリア出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、持続的な経済発展のために絶えずイノベーションによる「創造的破壊」を行うことが重要であると説いた。そのことはよく知られている。一方で、彼がもうひとつ重要なメッセージを残していることはあまり知られていない。

 大著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)で、シュンペーターはこう指摘している。

「資本主義は、その成功ゆえに失敗する」

 著書でシュンペーターが主張する概要は以下のとおりである。

  • 資本主義の発展は、やがて企業の巨大化と大企業による寡占化状態を招き、所有と経営が分離し、官僚主義が蔓延する。
  • その結果、アントレプレナー(企業家/起業家)の意欲が低下し、イノベーションが起こりにくくなる。
  • 富と豊かな生活を手にいれた人々は、自分たちの現在の生活維持を第一に考え、少子化も進行しやすい。
  • 豊かな社会に多くの教養人・知識人が登場するが、その大多数が批評家集団となり、政治的な力は発揮するものの、新しい産業や事業を生み出す力にはなりにくい。

 まさに、現在の日本と世界の直面する課題を予見しているようだ。米国では、中西部から北東部に位置する、鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業が衰退した工業地帯を「Rust Belt (錆び付いた地帯)」と呼ぶ。今後、GAFAをはじめとした巨大企業がますます力を持つと、様々な意味での格差が広がり、海外だけでなく、日本にも多くの「Rust Belt」が生まれる危険性がある。

 私たちは、人々が自由闊達に、充実感を持って経済活動を営めるよう、今起こりつつある「起業家社会」の意味と目的を改めて見つめる必要がある。

大都市への一極集中で進む、双方の「視野狭窄」

イノベーションコミュニティ

 貧富の差、格差は欧米に限ったことではない。日本でも同様に進行している。地方や地域の衰退は、決して人口減少のせいだけではない。真の原因は、大都市への過度な人口と産業の集中である。

 Venture Café Tokyo と茨城県(つくば市)とで協働して手がけるイノベーションコミュニティ「TSUKUBA CONNÉCT」のプログラムマネジメントを担う跡部悠未はこう語る。

「東京を含めイノベーションの中心と言われる大都市の発想は意外と視野が狭い(もしくはマイノリティー)と感じることも多い。でもその中心部に長くいると自分たちの考えや経験が狭いとは思いもよらない。世界のほとんどのエリアは地方/地域であり、それぞれが異なる常識や慣習を持っている。個別のバックグラウンドを持つ人や技術や発想が、大都市や世界の他の地域を見ながら、自分の文化に立脚した提案をしていくことができれば、多様性は無限になり、魅力あるイノベーションが生まれる可能性は高まると思う」

 イノベーション分野の研究員として、これまで国内外の様々な大都市、地方都市、地域のスタートアップ企業や研究シーズの発掘と事業化に携わってきた跡部ならではの見方である。大都市側から見ると、人材も都市も自分たちの周囲に集まっており、我々こそが広い視野で物事を見ていると「誤解」しがちだ。しかし、跡部の言うように、むしろ大都市の方が日本全体に広がる「資源」「機会」を見落としがちなほど「視野狭窄」に陥っているとも言える。

 一方で跡部は、「地方には、優れた研究であっても外部への発信が進まずに埋もれてしまっているものも多い。その使い道を地域内外の社会/事業に広くつなぐことができれば、いわゆる『縦割り化』『蛸壷化』のリスクがある研究シーズが、魅力あふれる『宝島』に変化する可能性を秘めている。」とも言う。

 一極集中の状態に慣れてしまうと、大都市と地域、双方が「視野狭窄」のリスクに陥る。前回の記事でも書いたとおり、この「視野狭窄」の壁を外部とのつながりによって軽やかに乗り越え、世の中で起きている重要な変化に気づき、それを機会として新事業に生かすことがイノベーションの重要な条件になる。

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この記事の著者

藤田 勝利(フジタ カツトシ)

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