コロナ以前には戻らない今、『戦略の創造学』を上梓
藤田勝利氏(Venture Café Tokyo 戦略ディレクター、以下敬称略):この対談を行っている現在は、新型コロナウイルスの問題があり、アメリカ大統領選の真っ只中でもあります。山脇先生は今の時代について、どのように捉えていらっしゃいますか。
山脇秀樹氏(ピーター・F・ドラッカー経営大学院教授、以下敬称略):私は普段アメリカに住んでおりますのでその立場での時代観になります。コロナの影響は色々ありますが、ロサンゼルスとカリフォルニアでは3月19日からロックダウンに入り、授業は全部オンラインになりました。私たちのドラッカースクールも含め、大学は今もオンラインです。
その結果ハーバードビジネススクールでは、今年9月の入学者が去年の25%減となったそうです。オンラインでビジネススクールに行っても仕方ないという人が多かったようです。ビジネススクールに行く理由のひとつには、対面でネットワーク作りをする、あるいは一緒に時間を過ごして苦労を分かち合うということがあります。その部分が欠けてしまったら、高いお金を出してビジネススクールに行く必要がないと思われたのでしょう。
もちろんオンラインで色々なことができることも分かってきたのですが、やはり対面には対面の良さがあって、それを捨てるわけにはいかない。その点が教育でもビジネスでも大きな課題になっています。
ただ、簡単に元の状態には戻りませんし、私が学生と話していても、元に戻らないという前提で考えている人が多いと感じます。そうすると、社会の前提、ビジネスの前提など、様々な前提が崩れていく中で、どうやって時代を捉えるのか。それが今、一番重要なことではないかと思うのです。
藤田:先生はそのような時代に著書を出版されました。まずは『戦略の創造学』で、デザイン思考、ピーター・ドラッカーのマネジメント、競争戦略の3つが交わるところにフォーカスされた背景を教えてください。
山脇:著書のコンセプトは、基本的には私が抱えていた問題を整理した結果生まれました。以前の私は、グローバルカンパニーについて経済学を使ったポーター型の競争戦略を教えることに力を入れていました。ただ、その教え方はマトリクスを描いてポジショニングをして、「競争優位性はどこにあるのか」というものでした。
「企業はすでにその産業あるいは分野に属している」という前提で話が始まるわけですが、MBAの学生から聞かれる質問としては「新しい分野や産業に参入するときにはどうするの?」というものが非常に多かったのです。そこで「どうやって新しい分野に参入するのか?」という発想を持ったわけです。