EBPMとは
EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、「証拠に基づく政策立案」と訳され、平成30年度内閣府取組方針では「政策の企画立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること」と定義されている。
これまで、政府や地方を含めた行政の政策立案において、民意や社会情勢をタイムリーに把握して、政策立案に反映するには限界があり、政策立案は「大きな声」「身近な声」「理解しやすい声」に偏りやすいという課題があったのだという。また、政策を実施した後の効果検証においても、数値的な指標がなかったり、因果関係の分析まで及ばなかったりすることが多く、政策ごとの効果検証がなされにくかったという課題もあった。
EBPMは、こういった課題に対応し、限られた資源を効果的・効率的に利用するための取り組みで、内閣府も後押しをするなど、注目を集めている。具体的には、現実を正確に把握するために収集されたデータの特徴を正しく把握する「記述統計」と統計学の手法に基づきデータを分析し、その因果関係を推論する「分析統計」を、エビデンスとし、それらに依拠した政策の立案を、各行政が行うことを指す。
DSOCとEBPM支援室とは
Sansanのデータ統括部門であるDSOCは、多様なバックグラウンドや専門領域を持つ研究者やデータサイエンティストなどのR&Dメンバーを擁する、事業の根幹を担う組織。「Activating Business Data」という部門ミッションに基づき、膨大な「出会い」のデータに基づく日々の研究成果を活用することで、Sansanのサービスを進化させ続けている。
特徴としては、画像処理・機械学習を専門領域に持つ研究員だけでなく、社会科学をバックグラウンドとしたデータサイエンティストも研究員として在籍し、社会科学の知見も活かし、研究活動を行っている。
DSOCでは、これまで、大学や研究機関との共同研究プラットフォーム「Sansan Data Discovery」を通した研究や、研究員の日々の研究をレポートにまとめた「Data Science Report」、各種論文の発表を通して、研究成果を社会に伝えてきた。
今回、EBPM支援室を立ち上げ、ビジネスネットワークのファクトや、DSOCが蓄積した知見から、行政活動を後押しする。
EBPM支援室の活動内容
DSOCは、この度EBPM支援室を立ち上げ、次の活動を通して、行政の政策立案や実施を後押しする。
■「ビジネス関係人口」のデータおよび分析結果の提供
ビジネス関係人口は、「営業活動や視察などを通して、その地域と間接的に関わっている、ビジネスパーソンの数」と定義される、DSOCが作った指標。名刺アプリEightの名刺交換データを、個人が特定できないように匿名化し、利用規約で許諾を得ている範囲で分析を行い、特定の市区町村の名刺を取り込んだことのあるユーザー数を集計し、算出。
ビジネス関係人口を用いることにより、これまでの調査、統計データでは明るみにならなかった、地方市区町村とビジネスとの関わりの度合いを知ることができる。例えば、地域振興として企業誘致を行った市区町村に関して、誘致後にビジネスの繋がりが強くなっているか、その度合いも含めて調査を行うことができる。
地域おこし施策の効果検証や、地域活性度のモニタリングをサポートすることで、地方創生のEBPMを支援したり、災害後のその地域の復興度合いを把握するわかりやすい指標として活用したりされることを想定している。
■市区町村のつながりシミュレーション
DSOCでは、ビジネス関係人口や、独自の分析モデル「重力モデル」をベースに、経済活動を支える鍵となる市区町村、「Key City」を特定するアルゴリズムを開発。「Key City」とは、その地区・エリアから特定の市区町村を除いたと仮定したときに、経済全体に最もマイナスなインパクトを与えうると予想される市区町村。その地区・エリアのネットワーク経済を支える、特定の市区町村がどこなのかを判断する指標となる。
この「Key City」の指標は、これまでに評価できなかった経済活動をとらまえる指標として、例えば、「コロナ禍による市区町村ロックダウンが各市区町村の経済活動に与える影響を分析」することや、「オリンピックなどの大型イベントの開催や新しい駅の開業などによる波及効果を調査」などに使うことができると考えているという。
どの市区町村の経済を刺激すれば全体に波及するかをもとに、都市政策や産業政策を実施する前の、評価・検証などで、行政の意思決定をサポートすることができるとしている。
■企業のステークホルダー評価指標「Eight Company Score」とパフォーマンスの関連分析
昨今、ESGやステークホルダー資本主義など、企業は短期的な利益追及や株主に対してだけでなく、顧客から地域社会まであらゆるステークホルダーに配慮して活動を行うべきという考え方が注目を集めている。そのため、それらの有効な評価指標および、実証分析に対する需要も高まっている。
Eight Company Score(以下ECS)は、270万以上のユーザーを有する、Sansanが提供する名刺アプリEightのユーザーに任意のアンケート調査を実施し、その結果に基づいた、企業のステークホルダーからの評価を定量化したもの。「企業ブランド」、「製品・サービスの社会への有用性」、「人の好印象」の3項目を測定している。これにより、ユーザーが名刺交換したことのある企業に関する印象調査を、ユーザーに行うことにより、これまで数値化されなかった「ステークホルダー資本」を定量化することができる。ECSを用いることにより、企業とステークホルダーとの関係性を定量的に把握することが可能になる。
DSOCでは、このECSの指標をもとに、ステークホルダーとの関係構築が豊かな企業が、実際に持続的成長が可能かどうかを検証するため、企業のパフォーマンスや無形資産価値との関連についての実証的な分析を進めている。