データを情報に変換し、意味づけする
ヴェンカトラマン氏は、インドでプロダクトデザイナーをしていたが、自転車と浄水器を設計しただけで物理的なモノのデザインには早々に興味を失ってしまい、データを扱うデザインの世界へと関心が移った。
イタリアでインタラクションデザインをあらためて学んだ後、デンマーク経営省が募集していた新しいデザイン教育機関の企画案が通ったのをきっかけにデンマークへ移住し、「Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)」の設立に携わり、デザイン思考と最新技術を融合させるカリキュラム開発などに取り組んだ。
また、「DDC(Danish Design Center)」とともに、データサイエンスとデザインの両方を学べるプログラムとして世界的に注目されている「Data Visualization Academy」を設立するなど、データ×デザイン教育に力を入れている。一方、1年半ほど前にコペンハーゲンに「Leapcraft」を創立、ビジネスとしてもビッグデータを活用したイノベーションプロジェクトに精力的に取り組んでいる。ヴェンカトラマン氏は立ち上げたLeapcraftを次のように説明する。
Leapcraftは、通常はITソフトウェアが扱う「データ」の分析、エスノグラフィや社会科学が扱う「ユーザーセンタードデザイン(人間中心設計)」の考え方を融合したいと思っています。
私たちの仕事はデータセットを情報にし、その情報に意味を与え、最終的に価値を創造することですが、これには異なるスキルを持つ人たちの協働リサーチが必要なので、小さなスタジオながら、デザイナー、コンピュータ科学者、人類学者など異業種のスタッフが集まっています。データの情報化までは他にも得意なソフトウェア会社はありますが、重要なのはそれ以降の情報の意味づけの部分です。私たちには、ストーリーを伝えること、そしてそのための洞察力が求められています。
素材となるビッグデータが持つ可能性については、20世紀初頭に登場したベークライト(プラスチック)が造形の世界を一変させた影響力になぞらえ、こう説明する。
ビッグデータは、金属やプラスチックとは違って具体性はないけれども、デザインにとっての新しい素材で、今後、人々の体験やもの見方に影響を与え続けていくでしょう。データのロジカル処理だけでは不十分で、これからは流動性の高いデータをクリエイティブに使いこなすツールやスキルを開発していかなければなりません。