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未来を先取りし事業で社会を幸福にする「SINIC理論」──コロナ禍の今とルネサンス時代の共通項とは?

「未来予測とイノベーション[サイニック理論]」~100年続くベンチャーが生まれ育つ都研究会レポート

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未来の社会的要件を先取りした「SINIC理論」とは

 事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会を創るためには、未来に先駆けて社会的ニーズを予測することがカギとなる。つまり、イノベーションには、”少し先の未来”を予測し、そこから見える社会的課題にフォーカスして取り組むことが有効だ──。そうした思いのもと、20世紀後半の工業社会“ど真ん中”を駆け上り、最後までベンチャー起業家としての姿勢を貫いたオムロン創業者の立石一真氏は、さまざまな言葉を遺している。

「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」
「経営とは未来を考えることだ」

 これらの言葉に現れる“未来志向”、そして“人間”を大切にする考え方が、立石氏が生涯で貫いてきたスタンスと言えるだろう。

 中間氏は、「創業者の一真さんは“利他の心”を重んじ、『最もよく人を幸福にする人が、最もよく幸福となる』という言葉を人生訓として色紙に記した。そこには絵が描き添えられており、経営者として忙しい最中にも、日曜絵画の『チャーチル会』に参加して絵を嗜んでいた。そうした人が創った未来理論なのだ」と語る。こうした考え方は、当時、サイバネティックス(人工頭脳学)の提唱者であるノーバート・ウィーナー氏の著書[1]にも登場しており、立石氏がさまざまな叡智に触れ、貪欲に自らの技術経営に取り込むことを大事にしていたことが伺える。

 20世紀後半当時の工業社会では、「未来を考えること」を重んじた経営者はわずかに過ぎない。“今現在”の延長線上でスケールを拡大していくことが“未来”だと考えれば充分に成長できたからだ。しかし、立石氏は「未来を予測し、社会のニーズを先取りしていくこと」を重んじ、それこそがイノベーションであるという意識を持ち続けていた。

 その理由として、中間氏は、「当時の日本では、米国は未来そのものであり、立石氏は米国企業の経営を常に意識し注目していた。頻繁に米国企業の経営者と接触し、未来を描くことが経営の自立の要諦と感じ取っていたことが伺える。ドラッカー氏との親交もこの時期のことだった」と語り、さらに未来予測理論を創った目的として、「さらなる成長への大きな資金を集めるには、未来のビジョンにステークホルダーの納得・共感を得ることが必須であり、単なる個人の思い込みでなく、しっかりと科学的な理論として未来予測を確立しておくことが必要だった」と解説した。

 この「SINIC理論」の“一丁目一番地”に当たるのが、科学・技術・社会による三角形の基本構造だ。科学が技術に種を渡し、技術が社会に革新をもたらし、逆に社会が技術に必要性を求め、技術は科学に刺激を与える。それがぐるぐると循環することでそれぞれが進歩する構造になっている。なお科学と社会については、後の解釈になるが、「科学は社会に夢を与え、社会は科学に期待を持つ」関係と考えている。そして、このトライアングルを回転させる原動力が「人間の欲求=進歩志向意欲」だ。

SINIC理論の基本構造画像クリックで拡大

 そして、SINIC理論は、2つのアプローチによって構成される。それが、「Normative Approach(規範的社会発展)」と「Mathematical Approach(数学的予測決定)」である。規範的社会発展では未来の発展段階について、歴史観に基づきつつ、規範的に未来を展望した11区分の社会を設定した。それらは「原始社会」「集住社会」「農業社会」「手工業社会」「工業化社会」「機械化社会」「自動化社会」「情報化社会」「最適化社会」「自律社会」「自然社会」である。そして、これらの社会の到来時期を数学的シミュレーションにより予測した。


[1]ノーバート・ウィーナー『人間機械論 ――人間の人間的な利用 第2版 【新装版】』(みすず書房 2014年)、ノーバート・ウィーナー『ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信』(岩波書店 2011年)

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