近年、世界各地で深刻な被害を及ぼす自然災害が頻発しており、世界的な気候危機への対応は、文字通り喫緊の課題。その対策としての「カーボンニュートラルな社会の実現」は、世界共通の開発目標となっており、日本でも2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを昨年10月に菅首相が表明している。
そうした背景から、旭化成はカーボンニュートラルな社会実現への貢献の一つとして、2019年9月に、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ「RE100」への参加を宣言、2038年までの目標達成を目指し、活動を続けていた。旭化成は、グループ会社が運営する電力小売り事業「へーベル電気」を通じて、太陽光発電システムを搭載したヘーベルハウス・へーベルメゾンオーナーから、卒FITを迎えた電力を買い取り、旭化成の事業活動で消費する電力に充当するスキームで、RE100の目標達成を目指しているという。
これまでの活動で、当初想定していた割合を大幅に超える、4割超のオーナーが本取り組みの意義に共感し、へーベル電気への売電契約を締結したことから、当初予定していた達成年である2038年を大幅に短縮した、2025年に目標を達成できる見込みとなったとしている。
一方でカーボンニュートラル達成のために住宅事業として必要とされる、住宅のZEH化については、一般戸建住宅への普及が進まない現状はあるものの、大手ハウスメーカーでは普及が進み、旭化成も過去5年間で急速にZEH化率が向上。しかしながら集合住宅、いわゆるZEH-Mについては、業界を含めて戸建住宅ほどには普及が進んでいないことが今後の改善課題。それを受け旭化成では、2021年3月より販売を開始している独自のZEH-M賃貸である「Ecoレジグリッド」について、今後積極的に普及を加速していく予定であり、その余剰電力も、今回のRE100目標達成前倒しの後押しとなっているという。「Ecoレジグリッド」は、その発電電力を入居者が購入することで、入居者の環境貢献意識を高めるほか、電力の地産地消を促すとしている。
旭化成のこれらの取り組みに関して、早稲田大学創造理工学部建築学科 田辺新一教授は以下のようにコメントしている。
「政府は2020年10月26日に2050年までに脱炭素社会の実現を宣言しました。改正地球温暖化対策推進法が5月に成立し、『2050年カーボンニュートラル』が法律的にも位置づけられました。また、我が国は2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度に比べて46%削減することを目指すと表明しました。さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていくとしています。カーボンニュートラルを実現するためには徹底した省エネルギーと再エネの利用が不可欠です。特に、2030年目標に関しては、太陽光発電が利用できる再エネ電源として注目されています。ハウスメーカーは、注文戸建のZEH(ネット・ゼロエネルギーハウス)にも積極的に取り組んできました。しかしながら、賃貸住宅に関しては建築主の初期コストの負担などから普及が遅れていたのが現実です。今回の『Ecoレジグリッド』はこのような問題を解決する優れた手法であると思います。建築主にとっても住み心地に加えて脱炭素価値や災害時のレジリエンス性能を提供できます。賃貸住宅に住む方も快適性や健康性に優れる住まいで脱炭素社会に貢献ができるとともに、万が一の停電の際にも共用部のコンセントなどからスマホへ充電も可能になります。また、日本全体でカーボンニュートラルが求められていますが、特に製造業、ものづくリの方々が再エネを必要としています。今回の『Ecoレジグリッド』は発電した再エネをゆくゆくは旭化成グループでも活用することを視野に入れています。これによって、日本のものづくりにも貢献することができます。顧客との強い信頼関係を背景に、電力買い取り実績を想定以上のスピードで進めながら、住宅分野だけではなく、グループ企業と協力して広くRE100達成に向けた努力をされていることを高く評価したいと思います」