DXで“ブラックスワン”“灰色のサイ”に立ち向かう
初めにウェイド氏は、世界がどのような課題に直面しているのか、2つの事象を基に説明した。1つ目は“ブラックスワン”だ。発生は稀で予想が非常に難しく、実際に発生すると壊滅的な被害をもたらす。最近の事例では新型コロナウイルスのパンデミックがこれにあたり、全世界が大きな影響を受けた。
2つめは、“灰色のサイ”だ。発生が稀なブラックスワン事象と異なり、珍しい事象ではなく、静かに進行して誰も気に留めない。しかし、一旦暴走し攻撃してきた場合は、大きな問題になる。たとえば、直面する事象として地政学がある。2021年2月にロシアがウクライナに侵攻を始めたが、その他にも今後、米国や中国といった大国を巻き込んだ紛争が起こる可能性がある。さらに、地球温暖化、火山噴火や津波などの自然災害、インフレ発生が予想される世界経済、サイバーセキュリティ、AIなどの技術発展、暗号通貨、NFT、拡張現実やメタバースなどが私たちにどのような影響を与えるのか予測することは非常に困難だ。
それらに立ち向かうため、自らを変化させていくことで多くの人が対応できる。それがDX(デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)だとウェイド氏は語る。ウェイド氏が定義するDXとは、単なるITや技術・デジタルプロジェクトではなく、デジタルツールやビジネスモデルなどを活用して組織を変えることでパフォーマンスを改善する組織変革プロジェクトを意味する。
また、DXとデジタル化は異なり、デジタル化は物理的なものをデジタルにすることを指す。たとえば、紙ベースの資料の電子化が該当し、同じプロセスを効率よく電子的にするだけだ。一方、DXは顧客のために価値を創造する新しい方法を見つけ出すことで、デジタル化よりDXの方が達成は困難だとウェイド氏は強調する。
IMD(International Institute for Management Development)でDXの研究センターを運営しているウェイド氏は、“コロナ効果”と呼ばれる変化を現場で測定した。「あなたの組織ではDXを重視していますか?」という質問に対し、パンデミック前は約2/3が「重視している」と回答し、残りが「重視していない」と回答。しかし、2021年には90%もの組織が「DXを重視している」と回答したという。また、パンデミック以前にデジタル化の推進に投資した組織は、デジタル化が低・中程度の組織よりも業績が優れていたそうだ。つまりデジタル成熟度が高いほど業績上の利益があったということになる。
一方で、DXは非常に難しい上、失敗する確率も高いこともデータが示している。ウェイド氏は収集したデータを1つの数理モデルにまとめて、DXの成功率の算出を試みた。その結果、なんとDXの87%が期待に応えていないことがわかったのだというのだ。