なぜスタートアップ企業で「信託型」が注目されているのか
──「信託型ストックオプション(以下、信託型SO)」。近年、スタートアップ企業を中心に導入が盛んになっている社内制度だとお聞きしました。そもそもストックオプション(以下、SO)とは、従業員や役員に、会社が定めた価格(権利行使価格)で自社株式の購入権利を付与する制度のことですよね。“信託型”は、従来のSOと何が違うのでしょうか。
小原 史啓氏(以下、敬称略):従来型のSOは、会社が従業員や役員に対し直接新株予約権を発行しますが、信託型では会社(発行会社)と役員・従業員(受益者)の間に、受託会社などの「受託者」が介在します。オーナー経営者などの委託者が受託者にSOの取得資金を「信託」することで、受託者が会社に対し払い込みを行ってSOをプールしておくという仕組みです。
信託型SOでは、会社のメンバー一人ひとりがどれだけの新株予約権をもらえるのか(自社株式を取得できるのか)、ポイント制によって管理するのが一般的です。つまり、ポイントをたくさん持っている人ほど、より多くの自社株を得られることになりますね。
──そのポイントはどのように付与されていくのでしょうか。
小原:細かい制度設計は企業ごとに異なりますが、勤続年数に応じて毎年ポイントが付与されたり、個人のパフォーマンスに対してインセンティブのような形で付与されたりするパターンが多いです。こうすることで、その会社で長年働いている従業員と、個人で高いパフォーマンスを出している従業員の双方を平等に評価することができます。
また、それらと併せてメンバーの役職や、会社の業績に連動して付与するポイントを決めている会社が多い印象ですね。そして最終的には、従業員や役員は自身の持っているポイントに応じて貰ったSOを株式に換え、それを売却することでキャピタルゲインを得られるわけです。
──一般的に、信託型SO導入に期待されているメリットとは何でしょうか。
徳光 悠太氏(以下、敬称略):小原さんがおっしゃった、従業員の公正な評価に活用できる点は、いわゆる従業員エンゲージメント向上や心理的安全性にも良い影響を与えるほか、魅力的な制度として人材採用の面でも多大な恩恵をもたらしてくれるでしょう。これから事業拡大を目指そうというスタートアップで導入が進んでいる背景には、このメリットの存在が大きいのではないでしょうか。
また、信託型SOでは、受託者が最初にすべての新株予約権を引き受けます。そのため、企業は都度発行する手間やコストを大幅に削減できるのです。
小原:通常、SOというものは今年発行して、来年また発行して……と状況に応じてこまめに新株予約権を発行しますから、企業にとっては大きな手間となる場合が多いんですよね。
それから、SOの行使価格も最初の発行時点での株価を基準に設定されるため、従業員の入社時期によって行使価格が変動することがなく、株式の希薄化が起こってしまうリスクも抑えられるといわれています。