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ザンクトガレン大学ガスマン教授が語る、ものづくり企業を進化させる「ビジネスモデル・ナビゲーター」とは

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産業の境界が曖昧になる時代に必要なこと

 スーパーマーケットが誕生する前は肉、パン、野菜は同じカテゴリーではなかったが、スーパーの誕生によって「食料品」というカテゴリーができた。同様にデジタル化により、さまざまな産業の境界の再編成が行われている。かつては本と食品は同じ場所では買えなかったが、Amazonやアリババのようなプラットフォームは産業の境界をまたぐビジネスになった。こういったプラットフォーマーは、顧客の利便性を最大限に考えたサービスを作り、その中で顧客のさまざまなニーズを満たすようなエコシステムを作る。そのエコシステムに飲み込まれずに独立を守ろうとする企業は生存競争に勝ちにくくなる。

 マッキンゼーの調査[1]によれば、2025年には従来の産業を再編成するような新しいエコシステムが多数誕生するという。下記の図では、色の付いた丸が既存産業であり、その既存産業を囲むようにグレーの色が付いた部分が、新しいエコシステム、プラットフォームとなるという見立てだ。

McKinsey Quarterly
図版出典:Venkat Atluri, Miklos Dietz, and Nicolaus Henke「Competing in a world of sectors without borders」(McKinsey Quarterly 2017 Number 3)

 プラットフォームビジネスにとってデジタルテクノロジーは重要な要素だが、ではハードウェア企業にデジタルテクノロジーがあれば、新しいビジネスを生み出せるのだろうか。「テクノロジーだけではビジネスにはならない」とガスマン教授は主張する。

 レーザー加工機大手トルンプ(TRUMPF)は、センサー、遠隔モニタリング、遠隔診断、遠隔最適化システムなど、遠隔マネジメントに必要なテクノロジーの多くを備えている。TRUMPFはそのサービスを自動車メーカーのアウディに提供したかったが、受け入れられなかった。アウディは、オンライン遠隔リアルタイム監視をTRUMPFに任せることに警戒感を持ち、何か問題があった場合にはアウディ側からファイアウォールを超えて連絡できることを要望してきた。なぜなら、アウディにとってレーザーカッターは単なる機械ではなく、その使い方にもアウディなりの実践知があるからだ。そのナレッジをTRUMPFが遠隔モニタリングすることで習得し、万が一にもライバル企業にそのナレッジが漏れ伝わることを危惧したのだという。

 現状、AIに関してはアメリカや中国が一歩飛び抜けている。だからこそ日本もヨーロッパもIoTや人工知能、ロボットなどを駆使し、より効率的な産業を実現する「インダストリー4.0」に注目してきた。しかし、TRUMPFの例を見れば、たとえテクノロジーがあったとしても、そう簡単にインダストリー4.0で収益が上げられるわけではないことがわかる。

 ではTRUMPFの事例では何が問題だったのか。それは「ビジネスモデル」が存在しないことだと、ガスマン教授は説明する。ビジネスモデルを作るのに重要なのはテクノロジーではない。もちろん技術の発展は必要だが、収益化とテクノロジーを持つことはイコールではない。


[1]Venkat Atluri, Miklos Dietz, and Nicolaus Henke「Competing in a world of sectors without borders」(McKinsey Quarterly 2017 Number 3)

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フェリックス清香(フェリックスサヤカ)

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