「ユーザー理解」の正しい意味と使い方
──まずはUXの要となる「ユーザー理解」とはどういったものか教えてください。
藤井保文氏(以下、敬称略):「ユーザー理解」とは、UXを作るために必要なあらゆるプロジェクトや作業の起点になる言葉だと思っています。対象となるユーザーを理解せずにビジネスやサービスを作るのはもってのほかです。
小浪宏信氏(以下、敬称略):「ユーザー理解」はその捉え方も手法も多様で、正解はありません。しかも、0→1でサービスを構想していくフェーズ、それを詳細に開発・デザインするフェーズ、サービスローンチ後にグロース・改善させていくフェーズと、それぞれでやるべきユーザー理解は異なります。ただ、どのフェーズでも重要なことは、顧客を理解し、その上で企画していくことです。
──お二人とも「ユーザー理解は起点である」と強調されました。そのように強調されたということは、ユーザーを理解せずにUXづくりに入ってしまっているケースが多いということなのでしょうか。
藤井:はい。担当者のドタ勘(土壇場の勘)や海外事例からアイデアを出して誕生したサービスの中には、ユーザー理解のフェーズがまったく含まれていないケースもよくあります。仮にあったとしても、自分たちの作った企画の“答え合わせ”や“最終チェック”としてであったり、社長や役員から聞かれたときのための“言い訳”づくりであったりする様子が見受けられます。この間違ったユーザー理解によって得られた発見から企画がひっくり返されることはあまりありません。しかし、ユーザー理解とは本来“ひっくり返す”ためにするものです。
小浪:私も同意見です。「ユーザーをきちんと理解する」といったステップを省いてサービスを作ってしまうケースは結構多いと感じています。
これはカスタマージャーニーづくりにおいても同様です。「顧客に寄り添おう」という想いで作ったとしても、実は企画者の感覚や経験に寄ったジャーニーで、ユーザーの思いや行動とギャップのあるものが作られてしまうことがあります。それが企画の源泉になってしまうと、結果的に出来上がったサービスもユーザーが求めるものとはかけ離れてしまいます。
藤井:見た目上うまくできているUXだったとしても、実は企画者の頭の中で描いただけのユーザーシナリオになってしまっていることがあります。ユーザー不在のUXはUXではありません。これはUXを作る上で大事なポイントだと思っています。
──「企画者の感覚でユーザー像を作らない」「ユーザー不在のUXはUXとは呼べない」とのことですが、それはつまりユーザーを実際に呼んだ対面でのヒアリングが必須ということでしょうか。
藤井:ユーザー不在となってはいけませんが、実ユーザーを呼ぶことが必須というわけではありません。確かにこれまでの話だけ聞くと、実ユーザーにヒアリングしたり、実際に使ってもらったりするプロセスこそがユーザー理解なのだと捉えられるかもしれません。ですが、本物のユーザーを連れてくることだけがユーザー理解というわけではありません。すべてのプロセスに定性調査を入れるとなるとかなり負荷が高くなり、クイックに進められない場面がありますしね。
小浪:フェーズやプロジェクトに活きるインプットが得られるのであれば、ユーザー理解の手法は自由でよいと思います。大切なのは、目的意識をきちんと持つことです。何をユーザーから聞きたいのか、それを聞くにはどうすればよいか、これらの観点を持ってさえいれば、実ユーザーにこだわらなくてもいいですし、対面ではなく電話調査でもいいかもしれません。
私が所属している電通デジタル社内のSlackでは、常日頃から「今こういう状態の人はいませんか」「こんな人を探しています」といったやりとりが行き交っています。クライアントやプロジェクトのユーザーを、まずは社内で探しているのです。このぐらい簡単なことでもユーザー理解といえるのです。