UX組織の役割と課題
第1回で解説したように、優れたUXの実現には欠かせない「5つの要素」があり、これまで5つのうち4つ目までを解説してきました。
優れたUXを実現し続けるためには、上記1~4を実行できる「UX組織」をつくらなければなりません。
マーケットの成熟化や人口減少などの様々な環境変化にともない、売り切り型のビジネスモデルでの継続的な発展は難しくなっています。今後はデジタル技術を活用し、顧客だけでなく提供側である従業員も含めた「状況」や「インサイト」をより深く理解し、心地よい体験を提供することで、いかに長く良い関係性を築けるかといった関係構築型のビジネスモデルが求められています。そこで必要になるのが、UX起点で意思決定される「UX組織」です。
しかし、UX組織づくりに際しては、課題を抱える企業が多いのも現状です。UXIAの分科会の1つである「UX組織開発分科会」がUXIA会員企業の状況を調査したところ、UX組織開発における課題は、大きく以下の3つに集中していることがわかりました。
- 経営層を含め、UXの重要性が理解できていない
- UXを全社推進するための横串組織が機能していない
- UXを推進する人財が足りておらず、社内教育整備も進んでいない
UXIAは、これらの解決要素として以下の3つが重要であると考えています。
- UXの重要性の啓蒙
- UX組織開発指針の策定
- UX人財の育成・開発
上記に向けた具体策の第一歩としてUXIAがまとめたのが、UXIA会員企業に配布している「UX組織開発リファレンスブック」です。このリファレンスブックは、UXを起点とする事業推進および意思決定される組織への変革を目指して作成された資料で、経営層・全社へのUX啓蒙を通した共通言語化を目的としています。
UX組織開発リファレンスブックは、以下のような内容で構成されています。
1.UX組織開発リファレンスブックの目的
経営層にUXを経営アジェンダとして認識してもらうこと、また、UX組織づくりの一助となることといった、リファレンスブックの目的をまとめています。
2.UXの定義
UXIAが定義したUXの定義「企業・サービス・製品と、関わるあらゆる人々との関係を形作る、相互作用のすべて」について解説しています。
3.UXの重要性
市場の成熟化やデジタル技術の発展などにより、今まで以上にUXが重要な世界へとシフトしていることを示しています。人類史的な観点や、社会環境・生活者環境・企業環境の変化といった観点で、経済的・人口動態的・技術的な側面からUX構築の重要性が増していることを解説しています。
4.UXへの取り組み効果
UX向上に取り組むことで、顧客接点の創造・シナジー創出・改善が期待されることを示しています。
5.UX組織へと変革するためのロードマップ
全社に対してUXガバナンスを効かせた状態へと変革するために、4段階からなるロードマップと、それを実行するためのアクションプランを示しています。
このリファレンスブックにまとめられているような情報によって、UXの重要性を啓蒙し、経営層や全社員との共通言語化を図ることで、UX組織開発に向けた指針策定を推進し、理想のUX組織へ近づくことができるでしょう。