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世界最大の量子投資家に聞く、量子技術への投資とビジネス応用──日本企業が抱える課題と必要な取り組み

第2回 ゲスト:Christophe Jurczak氏

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 量子技術の実用化が加速する中、その投資やビジネス化に向けた動きが活発化している。2018年に世界で初めてとなる量子分野に特化したベンチャーキャピタルとして誕生したQuantonationのマネージング・パートナー、Christophe Jurczak(クリストフ ジョルザック)氏は、日本にも、世界的な量子スタートアップが生まれる素地はあると語る。基礎研究のイメージの強い量子技術は、どのようにしてビジネスにつなげられるのだろうか。ジョルザック氏に、フランスでの量子スタートアップ・エコシステムの動向や、これから日本で同分野が発展するためのヒントを伺った。聞き手にはデロイト トーマツ コンサルティング合同会社で量子技術統括をしている寺部雅能氏を迎えた。

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専門知識を持つファンドの先導で量子分野への投資は急伸

寺部雅能氏(以下、寺部):まずは量子技術への投資を行うQuantonationについて教えてください。

Christophe Jurczak氏(以下、ジョルザック):量子テクノロジーへの投資には、応用の機会や課題への深い理解が極めて重要です。私は1996年にアラン・アスペ教授(2022年ノーベル物理学賞受賞)の下で物理学の博士号を取得しました。当時はまだ量子科学研究が黎明期にありましたが、その後、第二次量子革命の到来を受け、2018年に量子系スタートアップへと投資を行うQuantonationを立ち上げました。センシング、通信、コンピューティングなどの応用を目指す企業へ投資しています。

 私たちは、実験段階の技術を実用化し、社会にインパクトを与える製品へと移行させることを目指しています。エネルギー、ヘルスケア、防衛など幅広い応用が期待されています。タイミングとしても、量子技術が成熟しつつある今が絶好のタイミングです。

寺部:設立当初は量子技術への投資に消極的な人も多かったのではないでしょうか。

ジョルザック:2018年当時は量子技術への投資に興味はあるものの実際に踏み切れない人が多かったですね。量子技術は複雑で、他のディープテック系の企業と同様、初期段階では売上や利益での評価が難しいからです。そのため技術と科学を深く理解し、商業化に必要な時間を見極めることが重要になります。

 実際、原子一つひとつを光で操作する中性原子技術は1990年代から研究されており、商業化には30年以上かかっています。量子分野では「技術が成熟しているかの判断と、実現に何年ほどかかるかの判断」が必要不可欠です。だからこそファンド内部にも専門知識を持ったメンバーが必要なのです。

寺部:そうした困難はあったものの、現在世の中の量子分野への投資は加速している様子ですね。

ジョルザック:世界で量子スタートアップへの年間投資額も次第に増えており、当初は2億3200万ドルだったのが、2023年には12億ドルに達しています。Quantonationは良いタイミングでスタートを切れました。

 2023年にはベンチャーキャピタル投資は全体的に落ち込み、特にAI業界は40%も減りましたが、量子テクノロジー投資は2024年に入ってから大型ラウンドが実現するなど、見通しはポジティブです。

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 一つ注目していただきたいのは、Quantonationによる投資がさらなる投資を生み出している点です。当社は2023年時点で29社のスタートアップに合計6900万ユーロを直接投資していますが、それ以外の投資家からも2億1000万ユーロの投資、そして政府からの補助金として6300万ユーロの資金が投じられています。投資家コミュニティーが当社を信頼してくれているからこそ、この5倍の乗数効果が得られているのです。

寺部:なるほど、専門知識を持つファンドが先行して投資を呼び込む、といったモデルですね。

ジョルザック:はい。このモデルはカナダ、アメリカ、ヨーロッパで成功しており、日本でも同様に民間からの投資を促していきたいと考えています。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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