“やらされ感”では成果が出ない。エフェクチュエーションの可能性
──エフェクチュエーションは起業家に共通する明確なパターンを導き出した、アントレプレナーシップの理論ですよね。スケールアウトがエフェクチュエーションに注目するようになったきっかけを教えていただけますか。
飯野将人氏(以下、飯野):スケールアウトは2020年5月に設立した、リーンスタートアップをはじめとするさまざまな方法論を用いて企業のイノベーションを加速させる活動を行う企業です。私自身はベンチャーキャピタリストであると同時に起業家としていくつか会社を起こしてきたので、現場に寄り添ったイノベーション支援をやりたいと思っており、その支援を通してエフェクチュエーションの重要性に気づき始めました。
山形啓二郎氏(以下、山形):私は10年近く前に、経産省の委員会からスピンアウトしたJapan Innovation Network(JIN)という、大企業のイノベーション経営を支援する組織に立ち上げメンバーとして参画し、飯野さんともそのころに出会いました。多くの大企業を支援する中で、成果が出る企業と出ない企業があることに気づきました。理由はひとつではありませんが、うまくいかない企業には「動機を持つ人が不在のままイノベーションの手法論だけが普及する」という共通点があると感じています。
同じころNECにおいて、デザイン思考とリーンスタートアップを組み合わせた研修を企画・実施することになりました。4ケ月でバーチャルに新規事業開発を行う研修で、公募ではなく各部門から指名された人材が「0→1」でアイデアを生み出していくといった内容です。指名性で選抜されたメンバーに顧客インタビューを強いることが「重い研修」とネガティブに捉えられ、研修開始当初は不満を持っている人が多い印象でした。
ところが、顧客インタビューを繰り返していく中で、自分たちの提案を必要とするアーリーアダプターに出会うチームが出てきました。そのチームは魔法がかかったかのように変わり、個々人も活動に明確な目的や動機が芽生え、「やらされていた」デザイン思考やリーンスタートアップ研修に主体的に参加するようになりました。その結果、仮説検証と事業提案の精度が一気に加速していきました。
研修後に実際に事業化を検討できないかと、経営層に直談判する人も出てきました。われわれはこの事象を「アーリーアダプターと恋に落ちる」と呼んでいますが、個人やチームとしての動機がパフォーマンスに大きく影響することはもとより、一部の参加意欲の高い人でなくとも、自身の動機が見つかると変わり得ることを発見した瞬間でした。こういう変化を再現的に起こせるのであれば「動機を持つ人が不在のままイノベーションの手法論だけが普及する」という問題の打ち手になると考えた時、飯野さんが紹介してくれたのがサラス・サラスバシー著『エフェクチュエーション』でした。