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センサー技術で、「組織幸福度」の高速フィードバックを経営に活かす時代へ

特別鼎談:日立製作所矢野氏 × 入山章栄氏 × 佐宗邦威 氏 中編

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 入山章栄氏と佐宗邦威氏がイノベーションとクリエイティビティを包括的にとらえようとする本連載。今回の特別ゲストは、ウェアラブル技術やビッグデータ活用で今大きな注目を浴びている、日立製作所研究開発グループの矢野和男氏。膨大なセンサー情報を用いた研究を行なう中で見えてきた、人の新しい生き方・働き方は何か。中編となる今回は「幸せをどうやって測定するか」「組織にどう活用するのか」の議論へと展開した。矢野氏との特別鼎談・前編はこちら。

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身体活動を指標に「人間の幸せ度」を測定する

矢野和男株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長 矢野 和男 氏
1984年株式会社日立製作所に入社。中央研究所で半導体の研究に従事し、世界初の単一電子メモリの室温動作を実証した。2003年頃から世界に先駆け、ビッグデータの収集・活用技術に取り組む。人のコミュニケーションや身体運動などを記録した「ヒューマンビッグデータ」から、時間の使い方・組織運営・経済現象などの人間行動や社会現象を解き明かし、人間と社会に関する認識を根底からくつがえす科学的新事実を示してきた。

佐宗(「D school留学記~デザインとビジネスの交差点」著者):
 幸福度は、物質的な満足から主観的な満足をみんなが求める時代に変わってくるにしたがって重要になってきていますが、現実的には「主観的なものであるために」すごく測定が難しいとされてきましたよね。

入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
 幸福度を客観的に測定する普遍的な指標ができれば、心理学などには大きなインパクトを与えるんじゃないですか。いまもなお、研究者は「7段階の自己評価」(注1)などで主観情報を使って幸福度を測定していますからね。

矢野:
 そうですね。おそらく私が物理出身だからだと思うんですが、やはり普遍的な測定法、単位に憧れがあります。もちろん、個別の状況を理解すること、特徴づけする方法論に意味がないとは思いませんが、普遍的な指標を作ろうとする活動にもう少しシフトしてもいいでしょう。テクノロジーの進化のインパクトはそこにあるのだと思いますね。

人が幸福を感じやすいパターン図1. 人が幸福を感じやすいパターンから「幸福度」の客観指標をつくる
©Junko Shimizu

佐宗:
 「ハピネス指数」とか、そういう言葉で表すわけですか?

矢野:
 「ハピネス」はどちらかというと人間的な面から見た言葉でしょうか。私は、行動の「1/Tゆらぎ」が理想からどれくらい外れているか、というような、普遍的な身体運動の数値から幸福度は計算できるのではないかと考えています。(※ページ下、囲み内コラム参照)

 興味深いのが、東京大学の教育生理学の山本義春先生が、7~8年前に行った研究で、人間とマウスでの生活リズム計測による心身の健康状態評価(注2)を行なうと、マウスも人間と全く同じ形になることがわかっているんです。身体運動のゆらぎというのは、もしかすると哺乳類レベルでの神経・運動系のある種の制約、自然状態として存在しているのかもしれないのです。

 その自然なゆらぎを変える外部要因があると身体的な幸せを阻害することになり、そこにリンクしている心理的な「ハピネス」を阻害すると考えられる。こうした研究は始まったばかりですが、幸福の客観指標に切り込む第一歩になっているんじゃないかと思っています。

佐宗:
 なるほど、人が幸福度を感じやすい体の動きのパターンがあって、身体運動をウェアラブル機器で測定することで、結果的に幸福度を測定できるということですね。

入山:
 幸福度を表す指標をつくることができれば、個人的な価値はもちろん、組織内でのリソースとしても活用できるようになりますね。

矢野:
 そう、これまでも、例えば経済学などでは、通貨という普遍的な指標によって、人間の活動や幸せを置き換えて測定していましたよね。でもこれからは、逆に人間側に踏み込んで、そこから社会的な活動に応用していくことができればと考えています。

コラム:「1/T法則、1/Tゆらぎ」

人には動きを続けるほど止めなくなる「1/Tゆらぎ」という特徴がある。つまり“動”の状態がT分続けば、“静”に転ずる確率は1/Tになる。人間行動において、この1/T法則からのずれが小さいことを「1/Tゆらぎが強い」、ずれが大きいことを「1/T ゆらぎが弱い」と定義し、その意味について研究を続けたところ、そのゆらぎこそが、集団の幸福感に大きな関係性をもつことがわかった。これを「1/T法則」としている。幸福感が高く、ゆらぎの大きい集団では、1分以下の短い動きから長く継続する動きまで多様な動きが混ざりあっていることが発見された。
※矢野氏の研究や著作『データの見えざる手』を参照・引用

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