旭化成のDXとアジャイル経営
旭化成は現在、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3領域で事業を展開している。アジャイル経営を進めるにはものづくりの現場が会社全体の経営を考えて創意工夫し、チャレンジする姿勢が重要と講演の冒頭で久世氏は語る。現場が創意工夫しやすくする環境づくりのためにDXは必要であり、旭化成がDXを進めることでアジャイル経営が実装される仕組みだという。
なお、旭化成のDXは「人・データ・組織風土」の3要素で構成される。2020年までの導入期、22年までの展開期、24年までの創造期というように段階ごとにDXを進め、24年以降は全社員にとってデジタルの活用が当たり前となる「ノーマル期」を目指しているという。本講演では創造期である現在、同社が進めているDXの取り組みを中心に話が進められた。
DXへの取り組み1:デジタル人材育成
旭化成では「デジタル活用人材の育成」「デジタルプロ人材の育成」という2本立てでDXに向けた取り組みを進めている。まずは「デジタル活用人材の育成」、この活動は約4万人の全従業員を対象としており、レベル1、2、3とレベル別の教材が提供される。一部の外部演習項目を除き教育用コンテンツは内製化されているという。あくまでも社員の自己研鑽で進めてもらいたいため、業務命令ではなく社員が自ら率先して教育を受けたくなるようなコンテンツを目指していると話す。
もう一方の「デジタルプロ人材」の育成は2,500人を目標としている。この育成活動では部門別に複数のテーマが同時に進められており、研究開発部門を中心としたMI(マテリアルズ・インフォマティクス)人材の育成もその1つだ。MIは材料開発に機械学習を活用して材料物性の推定や探索などができるようになる方法で、開発期間の短縮や革新材料の開発が可能になる。MIのデジタルプロ人材は、自分たちでプログラムを組んだりするなど、自主的な活動も求められる。中でも上級人材はコミュニティを広げる活動や、初級・中級人材を育成する活動も求められるという。
同じくプロ人材育成テーマの1つである「データ分析人材育成」では、工場部門を中心にDXを進める。生産現場のプロセスデータ・品質データ等に対し分析ツールを駆使して、統計解析手法をはじめとするデータ分析に取り組み、品質や収率の改善、設備異常の予兆検知を実現する。データ分析人材の成り手は工場現場のエンジニアであり、デジタル共創本部のデータサイエンティストから育成を受ける。なお育成したデータ分析人材には、継続的なデータ分析活動による生産現場の問題解決、周辺社員へのデータ活用の啓発も期待している。ちなみに、旭化成のデジタル人材育成では、東工大など外部を交えた活動も行っているという。