三者三様の起業の経緯、実現したい社会像
──麻野さん、浅田さんは前職からスタートアップには携わっていらっしゃいましたが、起業家の立場になったことでスタートアップの見え方は変わってきましたか。
麻野耕司氏(以下、麻野):そうですね。同じ経営といっても、前職の上場企業取締役と今のスタートアップ創業経営者では、全く違うと感じました。経営に対する考え方は人によって違うと思いますが、私は既存の事業の延長線上にあるようなことではなく、革新的なプロダクトを生み出す大きな挑戦をしたいと思っていました。当時は私の力不足もあって上場企業の中でできることは限定的でしたが、一方のスタートアップでは、自分次第で世界を変える挑戦をするためにリスクがとれます。
もう一つ、起業して良かったのは、日本中の優秀なメンバーたちと一緒に働けることです。正直、起業前はスタートアップに挑戦したい人たちがこんなに沢山いることを知りませんでした。グーグル、マッキンゼー、マイクロソフト、IBM、リクルートなどの第一線で挑戦していた人たちと一緒に働くことは勉強になります。こうした優秀なメンバーたちを繋いでいるのは、世界を変えるような挑戦をしてみたいという気持ちかと思います。ナレッジワークはビジョンとして「人類が数千年とらわれている『労働は苦役なり』を打破していく」と語っています。我ながら子どものようなことを言っているなと思うこともあります。しかし、それくらいの難題にみな挑戦したいのだと思いました。
浅田慎二氏(以下、浅田):私は伊藤忠出身で、2012年からは伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)でスタートアップ投資を始めました。その前には、伊藤忠本体での事業投資も経験しており、大企業なのでリスク管理室もあり、3年以内に新規事業を黒字化しないと撤退するといった基準の中で仕事をしていました。
蓋然性が証明できたような大きな事業への投資の場合は、数百億円を投じることもありました。一方で、最初のプロダクトを出したばかりで、まだ売上もほぼゼロなステージで投資するVCの仕事の方に惹かれている自分もいました。
また、伊藤忠の先輩たちは当然ながら優秀でしたが、事業をゼロから作るという意味では、起業家のほうが優秀だと感じ、そういう人たちと人生をかけて仕事がしたいと考え、いくつかの経験を経てOne Capitalを創業しました。
志水雄一郎(以下、志水):かつて、ソニーやホンダが生まれてきたときには、リーダーは「このままじゃ駄目だ、みんなで共に社会を創ろう」と呼びかけたのだと想像しています。同じように、現在の日本からも世界的な新産業、スタートアップが生まれる必要があります。
リーダーは起業し、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)のもとに人を集わせ、プロダクトをつくって売上を上げ、利益から税金を納め、社会システムの発展に貢献し、企業が成長する過程において上場などで形成された個人の資産を社会や次世代の人たちのために寄付をしたり、投資を行ったりもできる。
なのに日本では、リーダーとなり得る人材に親も学校も大企業への安定就職を促す。これが日本の国際競争力を弱めているひとつの原因です。私はこれを変えるためにスタートアップをつくるべく活動しており、フォースタートアップスはそのために存在しています。