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次代のための“探索型”AI活用

なぜそのAIはイノベーションを生み出さないのか──「深化」と「探索」見落とされた片方の“手”とは

第1回

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 2010年代に起きたディープラーニング技術の開花をきっかけに、AIは3回目のブームを迎えたと言われます。以来、近年のDXブームも相まって、AI、ブロックチェーン、NFT、Web3、メタバースといった新たなデジタル技術の活用が期待されるようになりました。ですが、新たなデジタル技術の代表格であるAIすら、私たちの生活を大きく変化させるに至っていません。各企業で行われているAI活用やDXは、ただのスローガンに過ぎないのでしょうか。現在、AIは世間の過度な期待が失望へと変わる「幻滅期」を越え、真に正しい使い方を検討すべき「啓蒙期」に入ったと言われます。まさに今、私たちはAIの使い道を見つめ直すタイミングに置かれているのです。本連載では、次代のイノベーションを担う“探索型”AI活用について考察していきます。

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「両利きの経営」の本質

 イノベーションの必要性が叫ばれる近年、新たなビジネス理論として「両利きの経営」というセオリーが知られるようになりました。イノベーションの創出に必要な組織能力を2つのコンセプトで示したこのセオリーを改めて見てみると、既存事業の改良や生産性・効率性、実行力の向上を目指す「知の深化(Exploitation)」と、新規事業のための情報探索やリスクテイキング、柔軟性を高めるための「知の探索(Exploration)」という2つの領域での知識活動をバランスよく進める重要性を唱えたものだとわかります。つまり、イノベーションの実現のためには、既存事業を高めていきつつ、新たな事業の種を探していくことが肝心だというわけです。

 近年の日本企業の成長を振り返ってみると“カイゼン”や“PDCA”の徹底、効率化など、既存のビジネス現場を強くする「知の深化」の側面を得意としてきた一方で、新規事業の立ち上げや革新的な製品サービスの企画、またそれらの種になる研究開発といった「知の探索」の面では、世界に後塵を拝している様子が窺えます。昨今の“DX”のバズワード化は、こうした探索面での遅れを取り戻そうという企業意識の現れに見えなくもないですが、私たちは次代に向けた新しい知識やスキルを得ることに特に注力すべきタイミングに来ているのかもしれません。

「両利きの経営」について
クリックすると拡大します

 そして、その“新しい”ものの1つとしての矢面に立っているのがAI(人工知能)です。MM総研が2022年12月に発表した調査報告[1]によれば、AIソリューションを導入している国内企業はおよそ3割に到達。また、三井化学が全社員によるAI知識の習得を中心としたDX人材の教育方針を発表[2]するほか、日本製鉄[3]やパナソニック[4]、旭化成[5]など、大手の製造業企業を中心にAI人材・DX人材・デジタル人材育成への注力が発表されています。「AIX(AI トランスフォーメーション)」は言い過ぎかもしれませんが、変革に向けた技術の1つとしてのAIに対する期待は高まり続けているようです。

 しかし、イノベーション創出のための技術として期待されるAIではあるものの、近年の導入・活用状況を改めて眺めてみると、必ずしも目的にあった利用がなされているわけではなく、目的と手段にギャップを抱えている様相が見られます。つまり、新規事業開発をはじめとした価値創出を目的とした「知の探索」のために導入されているはずのAIが、実際には、多くのケースで既存事業での「知の深化」側で活用されているのです。


[1] 株式会社MM総研「AI人材の獲得が利用拡大のカギ「国内法人におけるAI導入実態調査」(2022年調査)

[2] 三井化学株式会社「三井化学が生産技術系DX人材育成プログラムを始動、日本IBMが支援

[3] 日本製鉄株式会社「人材の活用と育成

[4] パナソニック ホールディングス株式会社「「パナソニックグループのAI倫理原則」を策定

[5] 旭化成株式会社「中期経営計画におけるDX戦略~デジタル創造期の3つの柱~

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この記事の著者

椎橋 徹夫(シイハシ テツオ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

和田 崇(ワダ タカシ)

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