“片手落ち”のAI活用
経済産業省は「AI導入ガイドブック」で、2025年までに見込まれる経済インパクトをもたらす上位5つのAI導入領域として、「予知保全」「需要予測」「経理関連業務効率化」「データマーケティング」「外観検査」を挙げています。これらはいずれも、既存事業の省人化、効率化、生産性向上を狙ったもの、つまり両利きの経営に照らせば「知の深化」にあたる活動と捉えることができます。こうした既存事業の高度化が意義のある活動であることは間違いなく、それによってコスト削減や効率化を進め、「知の探索」の源泉ともなる収益の向上を目指すことは、経営戦略として取り得る選択肢の1つです。
しかし、AIを活用しているというだけでこれらの取り組みを“イノベーション”として短絡的に据えてしまうと、現実としては既存事業を高度化するための活動であるにも関わらず、あたかも新たな価値を創出しているように錯覚してしまい、本来目指すこととやるべきこと、目的と手段とにギャップが生じてしまうことになります。既存と新規のバランスを重視する両利きの経営で考えれば、「知の深化」側だけでイノベーションを目指すような片手落ち状態に陥ってしまっているのです。