新しいものを受け入れてもらう際の「燃料」と「抵抗」
ションタル氏は早速、今回の講演のトピックである「抵抗」とはどんな概念であるかについて簡潔に説明した。
いわく、新しいアイデアを人々に受け入れてもらう際には「燃料」と「抵抗」という2つの力が作用する。ここでいう「燃料」とは、アイデアや商品の魅力、現行の解決策の不十分さなど、変化を促すべき理由のことを指す。
一方の「抵抗」は逆向きの力である。人間というのは、変化が必要であり、より良い方法を具体的に理解している場合でさえ、新しいアイデアに対して消極的な態度になることがある。これを抵抗と呼ぶそうだ。当然、変革を遂げるためには、燃料が抵抗を上回る必要がある。
ションタル氏によると、新しいアイデアが受け入れられない場合、私たちは燃料に焦点を当て、変化をより魅力的にしようとする傾向にある。人間の思考の性質として、自分の努力次第で相手を納得させられると思い込み、相手の抵抗を無視する傾向があるからだ。だからこそ、商品に特徴を追加したり、価格設定を見直したりするアプローチを取る。企業においては、セールスやマーケティング、事業やサービス企画などの専門部門がこれに当たることが多い。
しかし、現実には燃料を増やすだけでは十分ではないケースも多い。だからこそ、ションタル氏はこの日の講演、そして近著において抵抗に注目し、アイデアの内容や設計だけでなく、そのアイデアを受け入れてもらう方法にも注意を払うことを提案している。
格安のカスタムソファが売れない“意外な理由”とは
燃料に着目するのではなく、抵抗に着目して課題を解決した例として、ションタル氏はカスタムソファを製造するスタートアップの例を挙げる。この会社では、通常のメーカーよりも70%安くカスタムソファを製造できるため、価格面で他社に圧倒的な差をつけていた。実際、ウェブサイトの訪問者数も多く、滞在時間は平均して6.5分とeコマースの分野では驚異的な数字を出していた。しかし、購入直前に離脱する人が続出しており、いわゆる「カゴ落ち」が課題となっていた。
このスタートアップは、価格と返品の仕組みが購入の障害と考え、価格を更に下げるプロモーションを行い、返金保証ポリシーを100日以内の返品対応に変更した。しかし、売上は改善せず、その理由を探るため、潜在顧客にインタビューを実施することにした。
10名強ほどに話を聞くことで明らかになったのは、現在のソファの処分方法を決めるまで、潜在顧客は購入に踏み切らないという傾向だった。回収を業者に依頼するのか、粗大ゴミとして捨てるのか、エレベーターで運び出すのか、階段を使うのかなどを決めるまでは労力や費用面での不安が解消せず、それが購入を妨げていた。
ゆえに、元のソファを回収するサービスを導入したところ、コンバージョン率は27.5倍に向上した。つまり、ソファの購入における抵抗要因を特定し、それを取り除くことが成功のカギだったのだ。