行政のデザインでも重要な「顧客接点」と「顧客理解」
岩嵜:デザインを組織にインストールするための仕組みづくりに取り組まれていると。しかし、行政組織に新たな仕組みを持ち込むのは、民間企業よりもハードルが高いように感じます。
鈴木:たしかに、「デザインの仕組みを導入して、プロダクトの見た目を良くしましょう」といった単純な理由で組織を説得するのは難しいですね。ただ一方で、行政組織には民間企業と違い「売上目標」という意思決定の土台となる指標がないので、異なるアプローチが必要です。
では、実際にどのように組織を説得しているかというと、非常に泥臭い話なのですが「デザインの力を体感してもらうこと」を重視しています。一緒にプロジェクトに取り組みながら、デザインのアプローチで予算や工数が削減される場面を目の当たりにしてもらうことで、その必要性を訴求していますね。
岩嵜:なるほど。「ユーザビリティの高いサービスを作るためにデザインが必要」という要素も、説得材料になりませんか。サービスデザインには、ユーザー視点は欠かせない要素です。
鈴木:そうですね。特に、河野太郎大臣をはじめ政治家の皆さんは国民から負託を受けている立場なので、ユーザビリティは非常に重視する傾向があります。
ただ、ユーザー接点の多い・少ないなどの業務上の立場によって、ユーザー理解のレベルが異なるというのはありますね。ユーザー理解という点では、中央省庁よりも地方自治体の職員の方が市町村民であるユーザーとの接点が多いです。地方自治体からデジタル庁に出向している職員も多いのですが、彼ら彼女らは自然とユーザー中心的な素養・資質を身に付けています。おそらく、日常的に住民と接する機会が多いので、ユーザーの視点で考えることに慣れているのではないかと。
逆に、中央省庁の職員は、国民と接する機会が少なく、フィードバックにも慣れていないので、ユーザー理解に関して、経験値が少なくなる傾向があります。ただ、近年では、マイナポータルなどの、国民と“ゼロ距離”になるサービスも数多く手がけていますし、ユーザーテストやインタビューも頻繁に行っているので、その傾向は変わりつつあるとも思います。