デジタル庁のデザイン組織に集う、多様な人材の共通点
岩嵜博論氏(以下、敬称略):私は政策デザインが研究テーマの一つで、行政組織とデザインの関係について研究してきました。デザインは公共セクターにも貢献できる力を秘めているのですが、それが日本ではまだまだ理解されていない印象です。なので、行政組織のなかでデザインアプローチを実践する皆さんには非常に期待を寄せています。まずは、皆さんのお立場とご経歴を教えていただけますか。
鈴木伸緒氏(以下、敬称略):私は2022年11月にデジタル庁に入庁し、現在は当庁のデザイン組織であるサービスデザインユニットのユニット長を務めています。
経歴としては、ウェブ制作会社を経て事業会社に10年ほど勤務したのちにメルカリに入社。フリマアプリやフィンテックなどのサービスデザインに携わりました。そのころに、経済産業省や金融庁などの行政組織と関わったのが、デジタル庁に入るきっかけです。当時、私は40歳前後で次のキャリアを模索している時期だったので、最も不確実性が高く、成長機会が得られそうなデジタル庁を選びました。
松本隆応氏(以下、敬称略):サービスデザインユニットでマネージャーを務めている松本です。キャリアとしては、新卒で入社したデザイン会社で広告デザインを経験した後、ゼロイチの経験を積むため、スタートアップに創業メンバーとしてジョイン。SaaSの開発やコミュニケーション戦略、ブランディングなどを手がけ、デザインのアプローチで組織変革を行うPeople Experience Designも担当しました。
デジタル庁への入庁は、社会的インパクトとスケールの規模に魅力を感じたからです。行政組織でデザインの力を証明すれば、オセロの角を取ったようにデザインが世の中に一気に広まり、社会全体を変えられるのではないかと期待したのが、入庁の動機でした。
志水新氏:(以下、敬称略):私はサービスデザインユニットでプロダクトデザインを担当しています。これまで大手IT企業やコンサルティング会社で、事業の企画や開発に関わってきました。
キャリアの転機は、2017年ごろにDanish Design Centerの代表を務めているクリスチャン・ベイソン氏の著作を読んだことです。学生時代、福祉機器のプロダクトデザインに携わっていたこともあり、ベイソン氏が論じていた行政とデザインの関係に新しい可能性を感じました。そこで、ニューヨークのパーソンズ美術大学に滞在し、ソーシャルイノベーションについて研究。帰国後、行政組織でデザインのアプローチを活用したいと思い、デジタル庁への入庁を決めました。
岩嵜:行政組織の社会的インパクトの大きさに興味を持った点で、皆さんは共通していますね。
鈴木:そうですね。サービスデザインユニットはまだ規模でいえば、それほど大所帯という組織ではありませんが、私たち3名以外にも、「デザインの力で社会的な課題を解決したい」「日本の変革にデザインのアプローチで貢献したい」という動機で入庁したメンバーが多いです。もとから、公共的なものへの関心が高い人が多いかもしれません。