不確実性とリスクの違い
変化とは前提が変わることだが、それは不確実性の増大を意味する。不確実性にうまく対処できるかどうかが、イノベーションの実現を左右する。不確実性をコントロールするには、新しい知識の獲得、つまり「学習」が欠かせない。
今回の記事では、
- 不確実性とは何か、なぜ学習という考えが重要なのか
- 学習の際にどのような原則を意識すべきか
について、事例も交えながら紹介したい。
不確実性とは、先の様子が判断できない際に発生する。多くの人や組織は不確実性そのものを避け、既に価値が明らかな既存の製品やサービスに固執する傾向がある。これは今に始まった話ではない。
1903年のミシガン貯蓄銀行頭取は「馬車は定着している。しかし車は違う。一時的な流行に過ぎない」と述べた。後に自動車の大量生産方式を確立するフォード・モーター社への投資に対する彼の意見は否定的だった。今から考えれば的外れな意見だが、彼の態度にもある程度の理がある。既に普及している馬車の需要は予測できるが、まだ普及していない車の需要は予測できないからだ。
一般的に、予測できるものはリスク、予測できないものは不確実性と表現できる。リスクの例として火災保険がある。火災保険を扱うのであれば「火災発生は137件/日(平成23年度:消防白書)」といったデータや、平均的な被害額などの情報を集めることで、保険の需要も算出が可能だ。リスクは、過去の情報を元にした分析や計算によって管理ができる。重視されるのは「データは正確で量は十分か」といった客観的な視点だ。
一方、不確実性はまったく予測ができない。たとえば、新たな科学的発見、今までにないビジネスの創出などは、過去に前例がないためデータも手に入らない。予測が不可能な状況において、頼りになるのは主観的な体験や知識だけだ。また、試作品を利用してもらうことで、「今まで知らなかったユーザーのニーズがわかった」ということがある。これはユーザーに関する新しい知識を獲得したことと等しい。
新しいことを学べば学ぶほど、予測の精度は高まり、不確実性が低減していく。競合他社が気づいていないユーザーのニーズを把握出来れば、事業の成功可能性も高まっていく。
では、具体的にはどうやって不確実性を減らせばいいのだろうか。つまり、どのような原則で学習していくべきだろうか。1つは「低コスト」、もう1つが「学習領域の限定」だ。具体的に見てみよう。