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「学習マトリックス」と「2つの効果的質問」

第4回

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領域を限定して学習する

 低コストでの学習を意識すれば、「この事業はうまくいかない」とわかって中止する際にも、致命的失敗を避けることができる。花王はその点で、学習的失敗のための準備ができていたと言える。しかし、FD自体は既に需要が確認されていた商品であり、その点では目新しさは少ない。さらに、花王は最終的に価格競争に巻き込まれて1998年に事業を撤退させた。恐らく、化粧品業界とIT業界におけるスピード感の違いなどが原因だろう。

 低コストで学習を行った点は見習うべきだが、主力事業と離れ過ぎている領域への進出は「リスク」を高める。日本において、71.6%の企業は新分野進出がうまくいかなかった経験をしている。もちろん新分野進出は、イノベーションを起こすうえでも、組織の成長を促進させるうえでも、重要な一つの選択肢となる。しかし、対象分野の知識が組織に全く蓄積されていない場合は、不確実性が高いためうまくいかない可能性がある。

 海外の事例としては、Googleのラジオ広告事業がある。これは、2006年から2009年の間に提供されていた、全米のラジオ局に対してラジオCMを流す広告サービスだ。インターネット広告と同様の発想で、ラジオ広告も自動課金をさせようと考えていた。

当時のサイト(Google Audio Ads)当時のサイト(Google Audio Ads)

 ラジオCMの空き枠を有効活用するはずだったが、現実は甘くなかった。関係者からの理解を得られず事業は失敗。損失は1億ドル以上となった。この失敗における教訓は何だろうか。

 1つは、既に述べた「低コストの学習がなかったこと」だ。もう1つは、コロンビア・ビジネス・スクールのマグレイス教授も指摘している「中核ビジネスからの乖離」がある。新規事業が既存事業からあまりに離れすぎていると、失敗の過程で学べたことを、次に活かすのが難しくなる。もし、これがインターネット関連の新事業における失敗であれば、そこから学べた知見を活用できる可能性は一気に高まるだろう。

 以上のように、1.低コストで行う2.対象領域を限定させることが、不確実性を減らすための学習的失敗に必要な原則となる。次のページでは、より具体的な形で、新規事業を取り組む際に利用できる「学習マトリックス」を紹介したい。

次のページ
未知を既知に変える「学習マトリックス」

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この記事の著者

柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

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