デザインの対象は国民の体験から政策まで拡張
後半は、政策データダッシュボードのプロジェクトでデザインを担当した志水新氏が講演を行った。志水氏は、まず、デジタル庁における3つのデザインの対象について説明する。
まずは、「国民が触れる部分のデザイン」だ。デジタル行政サービスのUIや、行政からのコミュニケーション、紙面や動画などを通じての広報が該当する。次に、「行政サービスのデザイン」だ。これは行政や公共サービスを提供している自治体や準公共の職員の業務や働き方のデザインも含んでいる。そして、もっとも高次元の話として、「政策、法令、制度もまたデザインの対象」になっている。なお、民間出身者は主として最初の2つを扱うとのことだった。
デザインの対象となる3レイヤーについて、志水氏は1つずつ具体例を挙げる。まずは、去年からデジタル庁で公開している「マイナポータル実証版」だ。国民の利用体験を1から見直し、新しい機能を追加したUIやUXを実装しているという。次は入国審査や税関申告がオンラインで可能になる「Visit Japan Web」だ。これはオンラインでの体験設計のデザインであると同時に、入国時の空港での体験、そこで働かれている方のオペレーションのデザインでもある。
最後の政策デザインはまだ紹介できる事例がないため、海外の事例が紹介された。ノルウェーの首都オスロでは、自動車の乗り入れに制限が設けられており、市民の移動手段の中心は公共交通機関と半民間半公共のシェア・サイクルだ。後者の「Oslo City Bike」の政策検討のプロセスには市民が参加しており、ゾーニングからUIやブランディングまでがデザインされたのだという。
政策データダッシュボードのデザインプロセス
次に、志水氏は、一般に向けて公開されている4つのダッシュボード、そして庁内のみで公開されたものに共通する開発プロセスを紹介する。
チームメンバーは、チーム全体を統括する樫田氏、デザイナーの志水氏、そしてデータアナリストとPMの3〜4名の体制だ。まずはデータを持っている部署(原課と呼ばれる)の行政官にヒアリングを行う。そしてデータアナリストがラフ案を作りながら、データの整備や要件の整理をする。その情報を一括してデザイナーが受け取り、見せ方についての理想の状態をモックとして提案する。それを見ながら関係各所や専門家と議論を重ね、現実解に落とし込んでいく。最終的にデジタル庁のマーケティング部隊と連携しつつ公開へと進む。これを3、4ヶ月ほどのスパンで行っているという。
ツールとしては、ヒアリングや要件整理はMicrosoft ExcelやPowerPoint、モックの制作はFigma、合意形成を行った後のダッシュボードの開発ではMicrosoft Power BIを用いているとのことだった。