TISとサントリーの新規事業開発組織
鈴木規文氏(以下、敬称略):まず、お二人がどのような形で新規事業創出に携わっているのか教えていただいてもよろしいでしょうか。
北直人氏(以下、敬称略):私は、技術的なR&Dや生産性改革などを担う組織である、TISのテクノロジー&イノベーション本部で本部長を務めています。当部署の中に、「インキュベーションセンター」という組織がありまして、全社横断的な新規事業開発の取り組みを牽引しています。新規事業創出制度の運用やスタートアップとの協業促進、さらにはCVCの運営なども行っています。
鈴木:かなりマルチファンクションな部署になっているのですね。R&Dも担っているとのことですが、これが新規事業開発に良い影響をもたらすことはありますか。
北:本業であるSI(システムインテグレーション)のエンジニアリングをやりながら、同時に新規事業開発のような極めてアジャイルな要件の開発にも挑戦することで、非常に多様な文化や考え方が組織に浸透しているのを感じます。これは、新規事業開発と本業のエンジニアリング双方にとって良い影響があります。
鈴木:次に川崎さん、お願いいたします。
川崎益功氏(以下、敬称略):私は1983年にサントリーに入社し、マーケティング本部で清涼飲料の商品開発に10年間、その次にビール事業部で7年間と、計17年間、新商品開発に携わりました。そして2000年に、現在はグループ会社として独立しているサントリーウエルネスの原型となる、ウエルネス事業を社内起業のような形で立ち上げました。そこから2020年まで約20年間、ウエルネス事業に携わってきました。おかげさまで、新領域ながら売上1,000億円超の事業規模に成長しています。
現在は、サントリー本体の経営企画本部長を経て、未来事業開発部という部署でシニアアドバイザーを務めています。この部署は、ホールディングス全体で未来の新たな事業を起こすために、2020年に設立されました。
鈴木:川崎さんといえば、やはりウエルネス事業の立ち上げですよね。今、健康食品をはじめウエルネス産業の市場は物凄い規模になっています。川崎さんが最初に事業を立ち上げた2000年とは、だいぶ市場や事業の環境が変わっているのではないでしょうか。
川崎:そうですね。最近でこそD2Cといった形で市民権を得ていますが、当時はマスマーケティングの対極にあるダイレクトビジネスやOne to Oneビジネスモデルは、大企業の中ではほとんど存在しませんでした。売り切りからLTVへとパラダイムシフトしたのは大きいと思います。社会的にも社内的にも、そうした顧客との関係変化への理解が大きく進んでいると感じます。そういったことも含め、サントリーそのものが新規事業にチャレンジしやすい会社になってきているのではないかと。
鈴木:なぜですか。
川崎:やはり、こうした成功事例が出てきたのが大きいと思いますし、ヘルス&ウエルネス、ダイレクト、DXなど事業の切り口が広がったこともあります。グループとして業績が厳しかった2000年頃から、様々な種まきをしてきたことが功を奏してきた面もあります。
鈴木:ぜひ、当時のお話をお聞きしたいです。