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ベネッセのDX組織が体現する顧客体験の分断の乗り越え方。横串組織はべき論ではなくQuick Winを

【前編】ゲスト:株式会社ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners 副本部長 水上宙士氏

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縦割りの組織やKPIが顧客体験を毀損する理由

藤井:ベネッセのデジタル戦略について深くお伺いする前に、まず私の問題意識を共有させてください。私がCCOを務めているビービットで、さまざまな顧客の支援をするなかで、かなり多くの企業が共通の課題を抱えていると感じています。それが「DXのゾンビ化」です。

 本連載でも何度か紹介しているのですが、「DXのゾンビ化」とは、つまり「DXのインフラや仕組みは整備したが成果が上がらない状態」を指します。システム基盤やデータ基盤の整備、顧客IDの統合、多様な顧客接点の確保、DX人材の獲得や内製化など、多額の予算を投資してDXに必要な環境を整えたものの、それをうまく使いこなせない企業がとても多い。

 では、その原因は何かといえば、私は「顧客体験戦略の欠如」だと思っています。自社の顧客にとって理想的な体験を描けていないために、せっかく整備したデータ基盤やチームをどのように活用すればよいかわからず、結果として成果が上がらないまま維持費や人件費だけが浪費されてしまうわけです。

 事実、最近では大手メーカーなどではDX組織を解体し、事業横断のCX組織を新設する事例が出てきています。これは、DXの推進には、顧客体験の構想やカスタマージャーニーの把握や改善が不可欠であることの証拠ではないかと。

水上:ベネッセにCX専任の組織はありませんが、DXの推進には事業横断による顧客体験の構築が必要というのは、とても共感します。DIPの設置にもそうした狙いが含まれています。

藤井:おっしゃる通りで、顧客体験の構築には事業横断型の組織が必要なんです。実は、最近それを痛感する出来事がありました。

 私はある海外ドラマが好きなんですが、最近その新シリーズが配信開始になったんです。ただ、待ちに待った3年ぶりの新シリーズだったので一気に視聴してしまって、気付くと5、6時間ですべてのエピソードを観終わっていました。そうすると、すごく強烈に「ロス」な気持ちになるんです。「ああ。また3年も待つのか……」という喪失感(笑)。

 それで数日ほど、もやもやした気分で過ごしていたのですが、2週間くらい経ったときに「グッズサイトはないのかな?」とふと思いました。それで検索してみたところ、ドラマを配信しているVODサイトの公式ECでグッズが販売されていたんです。

 このとき私は強い違和感を覚えました。顧客体験の観点からいえば、ドラマを観終わって「ロス」の感情が高まっているタイミングでECサイトへの流入を促せば、ユーザーは高い確率でグッズを購入するはずです。それ以外にも、例えば、メッセージアプリへのアカウント登録を促したり、イベント情報を提示したりすれば、ロイヤル顧客の育成にも繋がるでしょう。

 では、なぜそうした施策を打たないのかといえば、おそらく組織が縦割りで事業部間やサービス間のKPIが完全に別々だからだと思います。だから、サイト内にずっと留まって動画を視聴してほしいし、外部サイトへの誘導は避けたいと。

 しかし、VODサイトはほとんどがサブスクリプションモデルですからグッズは売れたほうが良いはずですし、そのほうが顧客の感情にも寄り添うことができます。にも関わらず、組織やKPIが縦割りなばかりに、事業間やサービス間で成果を奪い合うような状態に陥ってしまう。

 こうした状態を避け、顧客に理想的な体験を届けるためには、事業部間やサービス間を取り持って、最適なカスタマージャーニーやそれを実現するためのKPIを設定する組織が必要になります。だから、顧客体験の最適化を目指すのであれば、事業横断による横串の組織を設置しなければいけないわけです。

藤井保文
株式会社ビービット CCO 藤井保文氏

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小さな成果の積み重ねが組織の縦割りを打開するカギになる

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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