CVC・VC・スタートアップ支援の立場からグローバル投資のあり方を考える
山田一慶氏(以下、山田):今回は、立場の異なる3名をゲストに招き、国内CVCのグローバル進出における現状と課題、成功させるためのポイントについて明らかにしていきたいと思います。1人目の登壇者は、2024年から米国におけるCVC活動を本格化させた、東芝テック株式会社 代表取締役社長の錦織弘信さんです。まずは企業概要について、ご説明をお願いします。
錦織弘信氏(以下、錦織):当社は、1950年設立の電機メーカーです。事業構成としては、POS(販売時点情報管理)システムの販売を中心とするリテール事業が全社売上の約56%を占め、残る44%が複合機やプリンタを取り扱うワークプレイス事業となっています。また、グローバル展開にも力を入れており、海外売上高比率は6割を超えています。
山田:そもそも事業レベルでグローバル市場に積極的に進出されているということですね。
続いて、X&KSK Fundのマネージングパートナーである、山本航平さんにお話を伺います。山本さんは元々楽天グループ株式会社のCVC「Rakuten Capital」で投資活動に携わっていらっしゃいましたよね。
山本航平氏(以下、山本):はい。当時は米国や中南米、インドをはじめとする海外企業への投資活動を行っていました。その後、元サッカー日本代表の本田圭佑と縁があって彼の投資活動に関わるようになり、彼が代表を務めるX&KSK Fundのマネージングパートナーに就任したという経緯です。
本田は、2016年に個人のエンジェルファンド「KSK Angel Fund」を設立して以来、約200社へ投資を行ってきました。2018年には、俳優ウィル・スミス氏とのジョイントベンチャー「Dreamers Fund」、2022年には、影響力のある著名人を共同投資パートナーに迎えてスタートアップ投資を行う、マルチファンドプラットフォーム「X&」を立ち上げました。2024年に設立したX&KSK Fundもその流れを汲むもので、日本のスタートアップへの投資を行っています。
山田:楽天グループのCVCで蓄積した知見と、現在のVCという視点に期待しています。最後にI&CO Director of Strategyの金山大輝さん、企業概要についてご紹介をお願いします。
金山大輝氏(以下、金山):当社は、顧客企業に伴走しつつ、ビジネスやブランディングの戦略立案を支援しています。創業者は、世界で活躍する日本人クリエイティブディレクターの1人である、レイ・イナモト。彼が、米国の大手広告代理店「AKQA」のチーフクリエイティブオフィサーを退任して独立し、設立しました。元々ニューヨークと東京の2拠点でしたが、2024年にはシンガポールにもブランチを新設し、APACへの進出を目指す日本企業のサポートや、反対に日本市場への参入を模索するAPACスタートアップの支援を開始しています。今回は、事業会社のCVCでもなく、VCでもない、第三者の立ち位置でお話しできればと思っています。
事業目標の達成に不可欠だったCVCのグローバル進出
山田:ここから、グローバルにおけるCVC活動の実態について、具体的に伺いたいと思います。まず、錦織さんにお聞きしますが、東芝テックがCVCを立ち上げてから、グローバル進出に至るまでの経緯を教えてください。
錦織:2019年にCVCを立ち上げ、当初は国内企業をメインに投資活動を行っていました。しかし、各業界にDXの波が押し寄せ始めたころ、DX先進国である米国の知見を取り入れない選択肢はないと考え、米国のスタートアップ投資を本格化させました。
CVCの組織は、全体で約20名。2024年からは、米国のスタートアップ投資担当者を1名、シリコンバレーに常駐させています。
山田:米国のスタートアップ投資では、日本企業への投資活動だけでは得られない知見があるということでしょうか。
錦織:はい。これには、当社の事業ビジョンが深く関わっています。当社は、POS領域における国内・世界シェアNo.1というタッチポイントを生かし、単なるハードウェアの提供・保守から、プラットフォームへのデータ集積、それを基盤とする新たなソリューション創出へと、力点を移そうとしています。その上で、全バリューチェーンにおけるデータのバーティカルインテグレーションを実現し、リテールやオフィスといった領域における社会課題を解決することを、最終的な目標に据えているのです。
それを実現するためには、今まで当社にはなかったノウハウや知見が必要です。しかし、国内でトップシェアを占めていると、既存顧客の要望に対応するだけの状態に陥りやすく、また国内企業だけに投資をしても、事業関連性が高いケースが多く、新しい発想が生まれるには限界があります。だからこそ、米国で最新の市場動向を学び、刺激を受ける必要があると考えました。