データインフォームドの“効能”は業務改善や価値創出にあり
さらに加部東氏は、多くの企業でデータインフォームド・アプローチの導入が進まない理由として、データ分析の複雑さやコストの高さを挙げる。結果として多くの企業が依然として「勘、経験、度胸(KKD)」に頼っており、データ分析をいわば贅沢品として見てしまう企業も少なくないという。
また、実務での課題として、「整理が必要なデータ」の存在を挙げ、こうしたデータを統合し実用可能な形にする技術力が不可欠であると述べた。この点はギックスの強みでもあるとし、JR西日本との取り組みのなかでの実例を挙げる。
2018年からJR西日本と協力して進めるプロジェクトでは、鉄道線路に設置したセンサーからのデータを活用し、故障箇所を予測。保守作業の効率化に貢献している。しかし、線路の歪みを検知するドクターイエローは、箇所によって走行速度が異なるため、生のログデータはそのままでは扱いにくい。ギックスでは、こうしたデータや現場での手書きの作業記録などデジタル化されていないデータも取り入れ、加工したうえで分析をしていると同氏は話す。
そうして得られた分析結果を、現場との密な対話のなかで施策に落とし込むことで、実際の業務に即したデータ活用をすることが重要であると加部東氏は力説する。線路の点検作業は毎回異なる地点で行われるため、リアルタイムでの課題特定と改善策の提案がデータ分析にも求められる。ギックスはこうした短期的サイクルを繰り返し、業務改革を進めているという。なお、JR西日本との取り組みは、コロナ禍を経て協力体制が強化され、現在では業務改革やビジネスモデルの再構築支援にまで発展しているという。
一方で、加部東氏は「データを活用しても業務改善が見られないと予想されるケースも多い」と指摘。ギックスでは、データ活用が業務改善に寄与しないと判断した場合は、敢えて依頼を断ったり、データ分析の前段階として業務課題整理のご提案をしたりすることがあると述べた。またKKDなどによる「既存の判断で十分であれば、そのまま進めるほうがよい」と提案することもあるという。
つまり、データインフォームド・アプローチの本質は、業務効率や価値創出、競争力向上にあるのだ。一連のプロセスで重要なのは、まず業務のどの部分に変革を起こすべきか、その具体的な目標を明確化する点だと加部東氏は指摘する。そのなかでデータと人間の判断が調和することで、現実的かつ効果的な業務改革が実現できるとした。