なぜDEIがビジネスの成功に欠かせないのか
リュー氏は続けて、DEIがイノベーションの加速とビジネスの成功にどうつながっているかを尋ねた。
第二次世界大戦後、日本が製造業などを中心に力強い復興を遂げ、経済大国になった背景には、強い階層構造をもち、終身雇用で、同じような人材を育てる社内教育の重視があった。これらは社内の文化やマインドセットとして現在も一部が色濃く残っているが、それは“物を作れば売れる時代”ならではのものでしかなく、今の時代には合わなくなっている。終身雇用をやめ、マインドセットを変えることがビジネスの成功のために必要だとJERAのユアン氏は主張する。
ひと昔前は、ものづくり中心時代のマインドセットや組織構造、雇用システムがイノベーションや変化を抑制していたが、JERAにおいては変わってきている。現在、JERAでは2つの入社方法が存在している。1つは新卒で入社しキャリアを歩む働き方。もう1つは、特定のキャリアを歩んだ専門家として従来の枠を超えた新しいプロジェクトや任務に取り組む働き方。ユアン氏は後者の働き方の恩恵を受けて素晴らしい機会を与えられたという。外国人であり、女性であり、日本語を流暢に話せないユアン氏が、同社の数少ない女性リーダーであり、海外拠点の取締役会に参加する機会も与えられている。
日産のバロン氏は次のように語る。日産は世界中で自動車を販売しているグローバル企業である。女性購入者が増大し、男性の購入意思決定にも女性の意見が大きく影響している。それなのに、男性だけが車を企画・設計し、どんな機能を搭載するかを決定するのは理にかなっていない。新車投入に向けて行う市場調査において、分析者としてではなく意思決定者として女性が参加することは非常に重要だ。
たとえば、日産でスライドドアを足で開けるアイデアを出したのは女性たちだった。子供や荷物を抱えている時にハンズフリーで操作できる機能を求めたのだ。2023年、「ウィメンズ・ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー2023」(審査員が女性の自動車ジャーナリストのみで構成される世界で唯一の自動車賞)において、「ベスト・ラージSUV賞」を受賞した車種「エクストレイル」。この開発にも多くの女性たちが関わっている。顧客と同じような人々が製品・サービスを開発するのはビジネスでの常識だ。
開発だけではない。特にアメリカでは車のディーラーは女性にとって居心地の悪い空間になっていることが多い。販売サイドにも女性の声を反映し、ディーラーを女性にとって快適な場所にすることも必要である。そういった発想が必要なのは女性に対してだけではない。企業の生き残りのために、バリューチェーン全体にダイバーシティを持たせることは必須であり、そのために日産では、企業の中で共通の特性をもつ従業員により構成される組織「ERG(従業員リソースグループ)」を活用している。
アサヒグループの前田氏もバロン氏に同意する。我々の顧客、消費者の半数は女性であり、マーケティングや商品開発に従事する人材比率もその比率に近づけないと、市場のニーズを読み間違ってしまうと述べた。