DEIに対する、それぞれの思い
後半のパネルディスカッションでは、TDC Globalのサラ・リュー氏がモデレーターとして登壇者3名にDEIに対する思いを聞くことから始まった。
日産自動車の常務執行役員でグローバル人事マネジメント DEI担当のミシェル・バロン氏は、日産自動車が2004年にダイバーシティ ディベロップメント オフィス(現DEI推進室)を設立して以来、DEIを重視していることを紹介。バロン氏自身は日産自動車に入社する前にも自動車用電子機器サプライヤーで仕事をしていたが、20年以上前は唯一の女性社員だったために、ランチを取る相手がいなかったり、共通の話題がなかったり、仕事で仲間として認めてもらえないという経験をしている。だからこそ、私の後に続く人がそういった経験をしないようにDEIを重視しているのだと熱弁。そして、すでに多くのところで言われているように、DEIを重視しない企業は存続が難しくなると語る。
「世界が直面する問題を解決し、人々が求める製品・サービスを作り、優秀な人材に職場として魅力を感じてもらうためには、多様な人の声を聞くことが重要です」(ミッシェル・バロン氏)
JERAのアンジェラ・ユアン氏がDEIを重視するのは、自身が生涯を通じてマイノリティであり続けているからだ。9歳の時に香港から家族でオーストラリアに移住してエスニックマイノリティとして暮らし、法科大学院に進むが、そこではアジア系の女性の法学生は少なかった。卒業後エネルギー業界で働き始めると、女性はさらにマイノリティだった。日本に8年前に移住した時には「ダブル・マイノリティ」になったと感じた。日本人ではない女性が、日本的な企業で働いているからだ。しかし、マイノリティであることは決して不利ではなく、むしろ強みだと感じていると説明する。
JERAは東京電力と中部電力の合弁企業で、日本の伝統的な企業体質を残す。現在でも全社員の女性比率はようやく10%を越え、外国籍社員は全体の約1.5%のみだが、それでも変化は徐々に進んでいると話す。
前田直彦氏は、アサヒグループホールディングスが1889年に創業された歴史ある企業であり、振り返れば非常に国内志向でダイバーシティがなかった時代があったと話す。しかし、ここ10年ほどでグローバル化を強く進めている。前田氏自身は大学卒業と同時に同社に入り、日本の典型的なサラリーマンとして働いてきたと話す。最初のキャリアはエンジニアリング部門で、あまりダイバーシティがない環境だった。
しかし、同社がグローバル化に舵を切るなか、多様なメンバーと仕事をし、国外で働く機会を得たことで、多様な人々のアイデアを受け入れることが企業にとって非常に重要だと確信するようになった。私のような典型的なサラリーマンが変わることができるなら、全ての人が変われるはずだと信じて、DEIに取り組んでいると語る。