全社戦略を事業戦略の「ホチキス止め」にせず、「夢物語」にもしないために
市場環境の変化を受けて、事業のみならず、組織や人材の転換にも臨む日本特殊陶業。その野心的な取り組みに佐藤氏は称賛を送った。
「従来、日本企業では“事業戦略はあるが、全社戦略はない”というのが通例でした。中期経営計画として各事業部門が提出した事業計画をホチキス留めしたように並べて、それを全社戦略と称している企業が少なくなかった。しかし、日本特殊陶業さんの場合、そうした事業部門主導の戦略では、10年後、20年後には事業自体がなくなっているかもしれません。だからこそ、会社として、どのような姿を目指し、その目標に向けてどのように進んでいくかという、本来の意味での全社戦略が必要になるわけです。この一連の戦略プロセスを実行しているのは、まさしく事業家的な思考を有している証拠ですから、非常に興味深い企業だと思います」(佐藤氏)
加えて、佐藤氏は日本特殊陶業の投資家的な側面も指摘した。佐藤氏曰く、全社戦略は「夢物語」になりやすい。その夢物語に説得力を与え、社内外からの信頼を獲得するには、戦略の成果や進捗についてファイナンスの指標を用いて説明する必要がある。ビジョンを基軸にした全社戦略を実践しつつも、事業ポートフォリオにおける「内燃:非内燃」の売上高比率の転換やROIC目標など、明確な指標を用いて戦略を解説する日本特殊陶業は、投資家的な思考も併せ持っていると佐藤氏は述べた。