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新規事業を成功に導く“デザイン”の力

「うまくいかない」のは“型”に頼りすぎのせい? 新規事業に効くデザインの処方箋

第1回

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プロジェクトの停滞を解消する「デザイン」という処方箋

 前のページで見たように、新規事業の現場では、小さな「ズレ」の積み重ねが、プロジェクト全体の停滞を招くことが多々あります。そしてその「ズレ」の多くは、「そもそも何を目指すのか」「誰のために、なぜそれを行うのか」といった事業構想の初期段階で、ボタンの掛け違いのように生じているものです。

 私は、そうした状況にこそ「デザイン」という「くすり」が効くと考えています。

 デザインと聞くと、開発工程の最終段階で「見た目を整える」「美しく仕上げる」といった役割をイメージされるかもしれません。しかし実際には、デザインは事業やプロダクトを構想する、より早い段階からその力を発揮できるのです。

 たとえば、開発するプロダクトが「誰に、どんな文脈で、どう使われるのか」を生活者の視点で深く理解し、共感することで、初めてそのプロダクトが本当に必要とされる理由が見えてきます。そのためにデザイナーは、ユーザーの生活を観察し、声に耳を傾け、同じように体験してみることを大切にします。

 また、デザインは「考えてからつくる」だけでなく、「つくりながら考える」ことができるアプローチです。特に前例のないことに挑む新規事業では、完璧な計画よりも、仮説と検証を繰り返す柔軟さが求められます。「ラフでもいいからまず形にして、反応を見て、考え直す」というサイクルこそが、アイデアを現実へと近づける力になるのです。あるいは、まだ言葉になっていない構想をスケッチで可視化することで、関係者間の認識が揃い、チームの推進力が生まれることもあります。

 さらに、デザインには「翻訳者」としての役割もあります。技術者の言葉、ビジネスサイドの言葉、ユーザーの言葉。これらを橋渡しして共通のイメージを形作ることで、プロジェクトは加速します。この力は、複数の部門やステークホルダーが関わる新規事業において、特に大きな意味を持ちます。

 繰り返しますが、新規事業が失敗する原因の多くは、「伝わらない」「まとまらない」ことにあります。その背景には、バラバラのピースをつなぎ合わせ、チームを同じ方向へ導くデザイナーの不在があるのかもしれません。事業開発に「デザインの視点」を取り入れることで、成功の確度を高められると私は信じています。

新規事業を成功に導くデザインの視点を手に入れよう

 ここまで、新規事業によくある「ズレ」とその症状、そして「ズレ」を整えるデザインの役割について解説してきました。

 デザインは、美しさや心地よさといった感性的な価値を提供するだけでなく、事業の方向性やプロダクトの価値を整理し、関係者の認識を揃えるための思考プロセスでもあるのです。

 この連載では、デザインが持つ「統合的な視点で事業やプロダクトを開発する力」に着目し、ビジネスの現場で役立つヒントを具体的にお伝えします。読んだその日から少し視点が変わるような、実践的な内容を織り交ぜます。特に、これまで「デザインは自分に関係ない」と思っていたビジネスサイドの方や、デザイナーと協業した経験がない方にも、新規事業にデザインを応用する方法を解説します。

 新規事業の現場で起こるすれ違いや、前進しないもどかしさ。その背景には、生活者理解の浅さ、仮説検証の曖昧さ、ステークホルダー間の対話不足といった、共通の「症状」が潜んでいます。これらは事業開発の後半に表面化することが多く、その時点では「治療」が困難な状態に陥りがちです。だからこそ、プロジェクトの早い段階から「デザイン」という「くすり」を処方し、問題を未然に防ぐことが重要なのです。

 新規事業という先行き不透明な旅路を少しでも着実に進むために、本連載がみなさんの一助となれば幸いです。ぜひ肩の力を抜いて、気軽に読み進めてください。

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この記事の著者

門田 慎太郎(モンデン シンタロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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