解決すべきリスクの優先順位を考える
では、仮説が内包するリスクは、どのように評価すればよいのだろうか。リスクの大きい順に3つに分けて考えてみよう。
ディールキラーリスク
間違っていたらプロジェクトを全面的に中止しなければならない、不確実性の高い仮説が持つリスク。技術上の問題か価格設定かなど、何がディールキラーリスクになるかは、ビジネスモデルによって異なる。
進路・選択によるリスク
選択肢が複数ある場合、どれを選ぶかによって生じるリスク。たとえば、ソフトウェアのコーディングに選択肢が2通りある場合、どちらか1つを選ぶ。うまくいかなければそのコードを全部捨てて、やり直さなければならない。アイデアそのものはつぶさなくてもよいが、リリースの延期や投資の増加は余儀なくされる。
投資収益率で測れるリスク
プロトタイプ製品で顧客の色の好みを確認するなど、テストの投資額分に見合った分だけ軽減できるタイプのリスク。費用対効果の手法を用いて安く簡単にテストできるが、やはり解決しておくべきリスクであることには変わりない。
影響の大きいリスクには早い段階で対応する
前ページのリスクをテストする方法について、オンライン小売サイトを例に考えてみよう。
従来型直線的アプローチ VS. 価値創出アプローチ
図表5の右上グラフ(「従来型直線的アプローチ」)で、左上から右下へと傾いているラインは、従来の1.ウェブサイト構築→2.倉庫確保→3.仕入れ→4.顧客来訪→5.操業→6.商品構成、という直線的な開発アプローチを示す。
この流れの問題点は、4.顧客来訪の段階で“ディールキラーリスク”にぶつかることだ。ウェブサイト構築、商品準備などを終えた後でそのサイトに顧客が興味を持ってくれなかったら、すべての投資が無駄になってしまう。
そこで、顧客需要を先にテストする方法はないだろうかと考えてみよう。顧客需要を早期に把握できれば、ビジネスの価値もそれだけ早く高められるはずだ。たとえば、まず他社のマーケットプレイス内に出店して顧客需要を探ってみてはどうだろうか。こうすれば、閲覧率や購入履歴、価格や納期に対する満足度など有用な情報をいろいろと収集できる。
あとは、得られた情報に基づいて、商品構成や価格設定、納期などを顧客の要望に合わせて変更すればよい。この時点で商品構成を決められれば、投資リスクは直線的な開発アプローチよりもずっと低く抑えられる。
一方で、商品のより良い提供方法が分かったことで、利益を出せるビジネスモデルを作れる自信は高まっているだろう(図表5の右下の「価値創出アプローチ」グラフ参照)。
このように、ビジネスモデルの中で最も重要な変数をテストする方法については、直線的にではなく、クリエイティブに考えてみよう。
最後に、企業でイノベーションに取り組む皆さんにあらためてお伝えしたい。何らかの変化や転換があったら、それを顧客の視点から見るようにしよう。彼らの状況、彼らの世界において何が変わりつつあるのかを見る。そのうえで、今後、自社は彼らにとってより価値ある存在になっていくのか、それとも価値を失っていくのかを見極め、自社の価値を高めるにはどうしたらよいかを考える姿勢を大切にしてほしい。