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AIは本当にSaaSを“殺す”のか? 「人とSaaSとAIエージェント」の役割分担による共存進化

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現実解は「共存進化」である。AI時代の新・業務フロー

 この現実を踏まえ、ラクスが提示する未来像は「SaaSの死」ではなく、「人間とSaaSとAIエージェントの新たな役割分担」による共存進化である。

 本松氏が示した「AIエージェントあり」の現実的な経費精算フローは、三者の連携によって成り立つ。まず申請者がAIエージェントに「指示」すると、AIはSaaS内の過去データなどを「参照」し、申請書ドラフトを「作成」する。申請者はそのドラフトを「確認」・修正し、堅牢なSaaS基盤に「登録」する。SaaSはデータを安全に保持し、ワークフローデータを参照して承認者へと回付する。承認者もAIに「指示」して規程違反などの一時チェックを行わせるが、最終的な妥当性の「確認」と「承認」は人間が行う。

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 このフローにおいて、AIエージェントはSaaSを置き換えるのではなく、「人間がSaaSを使って行っていた手間の掛かる作業」を肩代わりする支援者として機能する。そしてSaaSは、データの正確性や内部統制を担保する「System of Record(記録・統制の基盤)」として、よりその重要性を増すことになる。

AIが生み出す価値と、ラクスが実証した「正のサイクル」

 AIエージェントがSaaSと共存することで生まれる真の価値は、人間の「業務効率を高め、負担を最小化」することにある。本松氏は、これにより人間は「高付加価値業務へ注力」できるようになると語る。具体的には、「企画・戦略立案」や「業務プロセス改善」、そしてAIには代替できない「お客様との対話」といった、より創造的で本質的な業務へのシフトが可能になる。

 ラクスは、この「AIとの共存」を単なる理想論ではなく、自社で実践し、驚くべき成果として提示した。

「ラクス社内では全社員が生成AIを日々活用しています。その結果、一人当たりの生産性が向上し、『未来のコストダウン』が見込まれるようになりました。我々はこの『AI活用による生産性向上の見込み』を原資として、給与ベースアップの前倒し実施を決定しました」(本松氏)

 ラクスが提示した社内資料によれば、その規模は全社平均で3.0%引き上げ、定期昇給を含めると年収ベースで平均6.5%増となる。AI活用が生産性を上げ、その果実が従業員に還元され、さらに優秀な人材の定着・挑戦を促す。この「正のサイクル」を自ら実証したことが、ラクスのAI戦略の説得力を裏付けている。

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新戦略「楽楽クラウド」拡大と読者への示唆

 この「AIとの共存進化」という確信は、ラクスの新たな事業戦略として結実した。続いて登壇した上級執行役員の吉岡耕児氏は、AIによる市場変化を背景とした「楽楽ブランド」の拡大戦略を発表した。

吉岡耕児
株式会社ラクス 上級執行役員 吉岡耕児氏

 吉岡氏は、これまで「楽楽クラウド」が強みとしてきたバックオフィス領域に加え、フロントオフィス領域の既存サービスもAIと共に進化させる必要性を説いた。

「AIの登場で、従来のメール管理やメール配信といった業務のあり方そのものが変わっています。例えば『メールディーラー』は、今やAIによる回答文自動生成やネガティブ感情のリスク検知が求められる。従来のサービス名称では、我々が提供できる価値を正しく表現しきれなくなっていました」(吉岡氏)

 そこでラクスは、大胆なリブランディングを発表。「メールディーラー」は「楽楽自動応対」に、「配配メール」は「楽楽メールマーケティング」へと名称を変更し、「楽楽クラウド」ブランドの下で全方位的にAI活用を進める。特に「楽楽自動応対」では、過去の応対履歴をAIが学習し返信文を自動生成する機能を、追加料金ゼロで搭載するとし、AI活用の本気度を示した。

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 結論として、ラクスが下した答えは明確だ。

「SaaS is NOT Dead」

 本松氏が「AIと共に、ラクスはこれからも進化していきます」と断言したように、SaaSはAIに殺されるのではなく、AIと共に進化するパートナーとなる。SaaS利用者を支援するIT部門やコンサルタントの当面の課題は、「SaaSかAIか」の二者択一ではない。自社の業務プロセスにおいて、「人間」「AIエージェント」「SaaS基盤」の三者の役割分担をいかに最適に再設計するか。その実践こそが、AI時代の生産性向上を実現する鍵となるだろう。

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Biz/Zine編集部(ビズジンヘンシュウブ)

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