リコーとボッシュがオープンイノベーションへ舵を切った背景
リコーといえば「コピー機の会社」というイメージが強いが、現在その事業ドメインは、デジタルサービスの力で人々の「はたらく」を後押しする領域へと大きく移行している。建設業や製造業、介護、福祉など、多岐にわたる現場や社会の課題解決に向き合う中で、リコー1社単独のアプローチだけでは市場のスピードに追いつけないという限界があった。そこで、同じ想いを持つ企業を支援し、共にコラボレーションすることで、単独以上の高い価値をより早く社会へ届けるべく、オープンイノベーションへと舵を切ったのである。
一方のボッシュは、グローバル売上高約15兆円(903億ユーロ)を誇り、自動車部品などのモビリティ領域を主軸とするドイツ企業だ。売上の約8.6%にあたる約1.3兆円(78億ユーロ)を研究開発費に投資し、世界中で8万6,000人以上が研究開発に携わるなど、極めて強固な「自前主義」と高い技術力を持っている。
しかし、社内からのボトムアップアイデアに対して「本当に市場でビジネスとして成り立つのか?」という根強い懸念があったという。そこで、まずは社外のスタートアップなどと連携し、市場で評価される事業の種を確実に見極めるための「外部連携」へとシフトし始めたのである。
「TRIBUS」が描く、社内外を巻き込むエコシステム
リコーは2019年から、日本初となる社内からのボトムアップ事業創出とスタートアップ共創を合わせた統合型プログラム「TRIBUS(トライバス)」を開始した。プログラム設計の最大のポイントは、この「社内向け」と「社外向け」をあえて1つの枠組みに統合した点にある。
森久氏によると、立ち上げ当初は経営企画部門が「社員に挑戦する場を提供したい」と社内起案を模索し、一方で研究部門が「スタートアップと共創したい」と外部連携を模索しており、動きはバラバラだったという。しかし、「事業創出」という目的に違いはないため、1つのプログラムに統合する決断を下した。これまでに社内から508件、社外からは1,026件もの応募が集まっている。
この統合設計の狙いは、内向きになりがちな社内の起案文化に対し、横にスタートアップがいる環境を作ることで、社員や役員に「外部のまったく異なる価値観やスピード感」をぶつけることにある。同時に、スタートアップとの共創においても、一部の窓口担当者だけで完結させるのではなく、会社全体の大きなうねりへと波及させることができる。
さらにTRIBUSの設計で特徴的なのは、リソースを社内外に開いた「エコシステム」の構築だ。リコーグループの社員が「サポーターズ」としてスキル支援を行ったり、「カタリスト」として事業部門との共創検討を後押ししたりするだけでなく、マイクロソフトやKDDIといった他社のプログラムとも連携し、自社に閉じない広大な支援ネットワークを形成している。
ボッシュが進める2つの共創アプローチ
ボッシュが展開する新規事業のプログラム設計は、市場(新規・既存)と技術・製品(新規・既存)の軸で緻密にマッピングされている。その中でも、社外の力を取り込む(アウトサイド・イン)ための主軸となるのが「ベンチャービルディング(ボッシュビジネスイノベーションズ)」と「ベンチャークライアント(Open Bosch)」の2つのアプローチだ。
1つ目の「ボッシュビジネスイノベーションズ」が手掛けるベンチャービルディングは、ドイツ本社に拠点を置く100%子会社が主導するプログラムである。単なる資金提供ではなく、アーリーシードの若いスタートアップと事業アイデアの段階から「一緒に作る」設計になっているのが特徴だ。日本を含む世界8つのハブ拠点を持ち、現在は気候変動課題の解決に向け、直接空気回収(DAC)や炭素回収などの領域でグローバルに事業化を推進している。
もう1つの軸が、「Open Bosch」と呼ばれるベンチャークライアントモデルである。これはいきなり出資や買収を行うのではなく、ボッシュがまずスタートアップの「顧客(クライアント)」となる設計だ。社内の課題理解・特定(DISCOVER)から始まり、1~16週間のPoC(PILOT)を実施し、正規導入(ADOPTION)へと至るプロセスが明確に定義されている。スタートアップにとっては、ボッシュの世界60ヵ国に及ぶ巨大なグローバルフットプリントを実践フィールドとして活用でき、一度採用されれば一気にビジネスを拡張できるという強烈なメリットがある。事業部側にとっても、スピード感をもって最先端のソリューションを導入できる合理的な設計となっている。
