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ディープテック「事業化」への道筋

既存ルールが共創を殺す。大企業の「既存の論理」からディープテックを守る出島組織と資本戦略

第2回

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大企業の「免疫システム」からディープテックを守るには

 この「時間と言語の断絶」を埋める解決策こそが、「翻訳者組織」の設置です。ただし、単なる部署間の「仲介役」や「名前だけの新規事業部」であっては意味がありません。既存組織の力学から彼らを守り、真に機能させるためには、「『免疫システム』からの隔離」「組織構造の分離」「新たなKPIの設定」という3つの要件を満たす組織設計が不可欠です。

「組織免疫システム」からの隔離

 既存の事業部の中にディープテック案件をそのまま持ち込むと、企業の「免疫システム」が作動し、異物を排除しようとします。これは悪意ではなく、企業を守るための既存ルールが障壁となる現象です。

 下図に3つの部門の例に、典型的なフレーズやその背後にある論理を整理しました。読者の中にもこれらのフレーズを言った/言われた経験のある方がいらっしゃるのではないでしょうか。

組織免疫システムの図
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 一例として、上図のうち「購買部門」でのケースで説明します。

 通常、大企業の購買ルールでは「3社相見積もり」や「過去3期分の決算書提出(与信調査)」が必須条件となることが多々あります。しかし、ディープテック・スタートアップは、「世界に一つしかない技術(相見積もり不可)」を持ち、「創業間もなく赤字(与信不可)」であることが大半です。

 このままでは、「ルール上、発注できません」の一言で協業は頓挫します。

 そこで「翻訳者組織」の出番です。彼らは、この案件を通常の「資材調達」としてではなく、「戦略的R&D投資」あるいは「特命案件」として定義し直し、従来の購買プロセスをバイパスする特別な決裁ルートを通す役割を担います。このように、社内手続きという地味ながら致命的なハードルを、一つひとつ取り除く泥臭い動きこそが「翻訳」の実態です。

「出島」による構造的分離

 免疫システムを回避するために有効なのが、CEO直轄の独立組織、いわゆる「出島」です。既存の事業部(A本部やB本部)を通さず、経営トップに直接レポートし、稟議を1階層に短縮することで、意思決定のスピードと質を担保します。

出島の組織図
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事例:大手製造業A社の「イノベーション推進室」

 ある大手製造業A社では、過去に何度も事業部主導でスタートアップ連携を試みましたが、現場の「本業が忙しい」という反発や、失敗を恐れる減点主義の評価制度により、PoC止まりが続いていました。

 そこでA社は、本社から物理的にも離れた場所に、社長直轄の「イノベーション推進室(出島)」を設置し、以下のように決めました。

  • レポートラインの変更:事業本部長を通さず、社長へ直接レポート
  • 決裁権限の委譲:数千万円規模までは室長判断で即決可能に

 その結果、これまで半年かかっていた意思決定が2週間に短縮され、海外の有望なディープテック企業との資本業務提携が次々と実現。最終的には、その技術を取り込んだ次世代製品が、皮肉にも当初反対していた事業部の主力ラインアップとなりました。

 既存組織の論理から物理的・制度的に切り離すことで初めて、ディープテックの「時間軸」を守ることができるのです。

新たなKPIの設定

 出島組織の評価において、既存事業と同じ「売上」をKPIにしてはいけません。以下の3つの軸で、経営陣にその価値を認めさせる必要があります。

  1. 価値創出:売上の代わりに、将来のキャッシュフローの源泉となる「知財価値」や、投資先スタートアップの「含み益(エクイティ価値)」を評価します。ディープテックはBS(貸借対照表)を強くする活動だからです。
  2. リスク低減:技術成熟度(TRL)の進捗を評価します。「不確実だったものが、検証によって確実になった」こと自体を成果とみなします。たとえば、「量産化の目処が立った(TRL4→6)」ことは、売上がゼロでも大きな進捗です。
  3. 組織学習:どれだけの社員がスタートアップと協業し、新しいマインドセットを獲得したか(人材越境数)を計測します。組織文化の変革こそが、最も模倣困難な資産になるからです。

 この3つをセットにすることで、「今は赤字だが、会社としての資産価値と将来の競争力は確実に高まっている」ことを可視化するのが、翻訳者の腕の見せ所です。

3つの指標カテゴリ
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共創を殺さないために。大企業が知るべき「希薄化リスク」と資本政策

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この記事の著者

金子 佳市(カネコ ケイイチ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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