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ディープテック「事業化」への道筋

既存ルールが共創を殺す。大企業の「既存の論理」からディープテックを守る出島組織と資本戦略

第2回

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共創を殺さないために。大企業が知るべき「希薄化リスク」と資本政策

 「翻訳者組織」によってPoC(技術実証)を突破したとしても、その先にはさらに大きな壁が待っています。いわゆる「魔の川」を超え、量産化やグローバル展開を目指す「シリーズB」以降のフェーズです。ここでは必要となる資金額が数十億〜数百億円規模へと桁違いに跳ね上がります。

 大企業がディープテックスタートアップと本格的な資本業務提携を見据える際、彼らが直面するこの「資金調達のハードル」「株式の希薄化リスク」を正しく理解しておくことは不可欠です。相手の資本政策のメカニズムを知らなければ、真のwin-winな座組みは作れません。具体的にどのような戦略が必要になるのか見ていきましょう。

 ITサービスであれば、ユーザー数の伸びを見てVC(ベンチャーキャピタル)が追加出資しますが、ディープテックの場合、工場建設や大規模治験が必要なこの段階でも、まだ売上が立っていないことが珍しくありません。ここで通常のVCマネーだけに頼ると、資金がショートするか、過度な株式放出を余儀なくされます。

3層ハイブリッド資本政策

 そこで必要になるのが、資金の性質を理解し、パズルのように組み合わせる戦略です。単一の出資者に依存するのではなく、開発フェーズ(TRL:Technology Readiness Level)に合わせて以下の3つを使い分けます。

公的資金(助成金・補助金)、CVC(事業会社)、政府系ファンド・独立系VCの特徴と役割
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 TRLとは、技術成熟度を示す9段階の指標です。TRL1(基礎原理の観察)からTRL9(実環境での実証済みシステム)まで段階があり、フェーズが上がるにつれて必要な資金規模も急増します。投資家や事業会社とディープテックスタートアップとの対話では、「現在のTRLはいくつか」を共通言語として使うことで、期待値のズレを防ぐことができます。

TRLの定義
内閣府:「TRLの定義」を元に著者作成
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 これらを同時に動かし、互いのリスクを補完し合う構造を作ることが重要です。

資本供給量の図
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希薄化のコントロール

 大型調達において最も警戒すべきは、株式の希薄化(ダイリューション)による創業者・経営陣のモチベーション低下と経営権の喪失です。

 たとえば、シリーズAで20%、シリーズBでさらに20%……と、何も考えずに株式を放出し続けるとどうなるでしょうか。創業時に100%あった創業者の持株比率は、シリーズA終了時点で80%、シリーズB終了時には64%、さらにストックオプションなどを加味すると50%を割り込む可能性が出てきます。

持株比率低下のシミュレーション

  • 創業時:100%(すべて自分たちの意思で決定可能)
  • 〜シリーズA(研究開発期):外部資本が入り、持株比率は70〜80%へ。「まだ経営権は盤石」。
  • シリーズB以降(量産化期):数十億円を調達するため、持株比率は一気に50%前後、あるいはそれ以下へ低下。

 ここで経営権(拒否権等)を維持できるラインを割ってしまうと、外部株主の意向で経営方針が二転三転したり、最悪の場合、創業者が解任されたりするリスクが生じます。

 したがって、スタートアップ側は「いつ(どのラウンドで)、誰に(どの投資家に)、何%を渡すか」を、出口(IPOやM&A)から逆算して設計することが不可欠です。あえて借入(デット)を活用したり、優先株を発行して議決権を調整したりするなど、高度な資本政策が求められます。

 同時に、大企業側(CVCや事業会社)も、自社の論理だけで「出資比率の最大化」や「強すぎる拒否権」を要求してはいけません。スタートアップの経営権を奪い、次期ラウンドの資金調達を困難にしてしまえば、結果的に共創そのものが頓挫してしまうからです。相手の高度な資本政策を理解し、ともに適切なバランスを探る姿勢こそが、ディープテック協業を成功に導きます。

バリュエーションの図
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エコシステム全体で異なる「時間」を同期させる

 ディープテックの事業化とは、異なる時計を持つプレーヤー(研究者、大企業、投資家)の時間を同期させる作業に他なりません。

 R&Dと事業部の間には「翻訳者組織」を置いて言語と評価軸を整え、資金調達においては性質の異なる「多様な資本」を組み合わせて時間を稼ぐ。この「接続と翻訳の設計」こそが、研究室のダイヤの原石を、社会を変える大きな産業へと磨き上げる鍵となります。

 次回は、このエコシステムの源泉となる「大学発スタートアップ」に焦点を当てます。第2次大学発ベンチャーブームの現状と、アカデミアの中に眠る「知」をいかにしてビジネスの現場に解き放つか、その最前線を追います。

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この記事の著者

金子 佳市(カネコ ケイイチ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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