不確実な時代の生存戦略。天才に頼らない「実験組織」の挑戦
NECソリューションイノベータのイノベーションラボラトリは、新技術の獲得と新事業の実現をミッションに掲げ、SIerという業態の中でイノベーションを意図的に生み出す機構として機能している。日本の企業の平均寿命が23年と言われる現代において、「変化しないことは死」を意味する。同社も「Adapt or Perish(適応するか滅びるか)」「Innovate or Die(イノベーションをおこすか死ぬか)」という強い危機感を持っている。しかし、新規事業の約93%が失敗するという過酷な現実があり、企業が生存し続けるための投資は一筋縄ではいかない。
この難題に対し、イノベーションラボラトリ 所長の福井知宏氏は明確な解を示す。それは、誰も正解を持たない新規事業開発において「自分ではない誰かがきっと解決してくれるんじゃない?」という天才の閃きに依存する姿勢からの脱却だ。代わりに、普通の人が真摯に仮説検証と実験を繰り返す「実験組織」としてのスタンスを強調した。
「我々が導入した『イノベーションマネジメントシステム(IMS)』の一義的な目的は、成功確率の向上にあります。同時に、既存テーマに投資が偏って新陳代謝が起きないという、大企業病とも言える課題を打破することも重要な狙いです」(福井氏)
天才に頼らず、システムとプロセスによって未来の柱となる事業を創出する。同社のリアルな挑戦の土台には、こうした切実な背景があった。
プロセスの限界と反発から生まれた「Pre-Generate」フェーズ
IMS実践の要となるのが、プロセスの整備と評価の仕組みだ。同社はリーンスタートアップやISO56002を参考に、市場分析(Generate)から事業開始(Launch)までの明確なステージゲートを構築した。各フェーズでの活動期間や投資額の目安(例:Generateフェーズは3〜6ヵ月で100万円、Ideate2フェーズは3〜6ヵ月で500万円など)を明示し、組織としてのリスク許容度を可視化している。評価軸においても、コア事業のP/L(損益計算書)重視とは異なり、新規事業ではDCF法(事業価値)を用いるなど、中長期的な視点への転換を図った。
しかし、この精緻なプロセスを運用し始めると、思わぬ壁に直面したという。
「『これから市場ができる』『アカデミアで盛り上がっている』といった初期段階のアイデアが審査で落とされると、『審査員はわかってない』『やってみないとわからない』といった現場の感情的な反発を招いてしまったのです」(福井氏)
この挫折が大きな転機となった。いきなり事業計画を求めるのではなく、事業構想の前段に「Pre-Generate(質の高いネタ出し)」という新たなフェーズを追加したのだ。ここでは、あらかじめ設定されたゴールに向かう「コーゼーション(目的重視)」ではなく、手持ちの手段から走りながら考える「エフェクチュエーション(手段重視)」の論理を適用した。
質の高いインプットを確保するためにあえて投資を行い、早期の意思決定を戦略的に留保することで、豊かな事業シードを育む土壌が完成したのである。
