女性ならではの「制約」が高度なマネジメント力とイノベーションを生む
社会にイノベーションを起こすためのエンジンとして、女性のパワーをいかに引き出すか。冒頭で川口氏は「ジェンダー平等の達成によって世界経済に12兆ドルの付加価値がもたらされるというマッキンゼーによる代表的な試算がある。女性の活躍は単なる人権の総論ではなく、企業の競争力や経済的価値に直結する」と提起し、「女性ならではのパワーとは何か」という問いを会場に投げかけた。
性別で単純に分断することは本質的ではないという前提に立ちつつも、現在の社会構造において女性が置かれやすい環境が、結果としてビジネスに直結する独自のスキルを生み出している側面があることは確かだ。
KDDIの武田裕子氏は、女性、とりわけ子育てを経験する女性が培う「高度なマネジメント力」に着目する。家庭という制御不能な環境をマネジメントしながら仕事をするその経験が、部下の育成やプロジェクト管理において大きな強みになるという。女性管理職登用の文脈では物理的に長く働ける「子どものいない女性」が選ばれがちだが、武田氏は子どもを持つことはハンディキャップではなくむしろ強力な武器になると語り、その経験がイノベーションを牽引する力になると強調した。
これをより鮮明な実体験で示したのが、AI企業Bespokeの創業者、綱川明美氏だ。シングルマザーとして4歳の子を育てる綱川氏の稼働時間は、幼稚園の送迎がある関係で午前8時から午後1時半まで。その極限の制約の中から、当時まだ誰も手をつけていなかったチャットボット開発が生まれた。
「毎日13時半には仕事を切り上げなければならないという極限状態の中で、今まで以上のアウトプットを出すには、今までのやり方ではまったく通用しません。だからこそ、これまで存在しなかった発想や、テクノロジーの活用を全体的に検討する必要に迫られました」(綱川氏)
男性中心の古い業界に向けた足場点検自動化ロボットの開発など、綱川氏の革新的な取り組みは、時間的制約という極限状態が生み出した産物だ。
伊藤忠テクノロジーベンチャーズの根本愛子氏も「人口の半分は女性であり、その目線を取り入れることで圧倒的に市場に刺さるプロダクトが作れる」と続け、多様な視点がいかに市場競争力に直結するかを指摘した。
変革を阻む「構造的格差」と「アンコンシャスバイアス」の正体
次なるテーマは「構造的な課題とそれを乗り越えるリアル」だ。
女性の活躍が組織の成長に不可欠であることが明白であるにもかかわらず、日本のビジネス現場における歩みは遅い。根本氏はその最大の要因として「意思決定層における女性の圧倒的な少なさ」を挙げる。役職者に女性が少ないことで意見が通りにくくなり、実力主義を掲げる組織であっても評価する側にアンコンシャスバイアスが存在する以上、構造的な格差は温存されやすい。
「マイノリティの比率が全体の3割を超えないと、その人は『1人の個人』としてではなく『マイノリティの代表』として扱われてしまいます。アンケートなどを活用して社内の課題を可視化し、重要度と解決可能性で優先順位をつけることが変革への近道です」(根本氏)
武田氏は、この停滞の要因を「女性自身の自信のなさ」と「経営層の意識」の両面から分析する。
KDDIで実施したアンケートでは、「将来管理職になりたいか」という問いに対し女性の「なりたい」比率が男性を大きく下回り、その理由として「自信がない」「家事・育児が忙しくてコミットできない」という回答が目立ったのだという。
現在の50代・60代の経営層は女性活躍推進の必要性を頭では理解していても、「女性が社会で活躍するためには男性が家庭のタスクを分担しなければならない」という本質的な理解に至っていないケースが多いと武田氏は指摘する。とはいえ、30代の若手男性社員の間では家事育児の分担が進んでいるとも述べ、世代交代が進めば構造的な課題も解消されていくという見立ても示した。
