戦略投資は不慣れな事業の意志決定
社会インフラ企業の事例-社会インフラ企業の“説明する仕組みづくり”
それでは、事例の1社目、ある社会インフラ企業の例からご紹介しましょう。この企業では、様々な理由から、本業の更なる成長は容易ではないと経営陣が判断し、本業以外の戦略投資を積極的に推進しています。前回説明したように、まさに、戦略投資によって新たな成長の柱となる事業を作ろうとしているわけです。経営陣の方針を受け、現場では様々な戦略投資を企画するようになり、実際に案件が増えてきました。ここまでは、経営陣が願った通りです。
しかし、その戦略投資の意思決定を下す段階になると、毎回困ったことが起きました。意思決定を下す経営陣は、基本的に本業出身なので、戦略投資の中身がよくわからないのです。この戦略投資は、なぜこの金額が必要で、どの程度“確からしい”のか。従来の事業には誰よりも経験を積んでいる経営陣なのですが、戦略投資は基本的に新たな挑戦なので、経営陣には何とも判断がつかない状況が頻繁に生じるようになりました。戦略投資の企画部署から、目をキラキラさせながら「この件、是非やりましょう!」と言われると、うまく行くかどうかわからなくてもダメと言いにくい、とはいえ、自信を持ってGoサインを出すわけにもいかない、という、典型的な意思決定の問題が、度々生じる状況になってしまったのです。
事業リスクの検討不足が懸念された
この企業の経営陣は、「これではいけない」と考えました。「よくわからないから、この戦略投資はやめておこう」ではなく、「よくわからないけど君に任せた」でもなく、「よくわからないから、しっかり説明してもらおう」と考えたのです。そこで、戦略投資を取りまとめる部署を新たに設置し、その部署の使命を、戦略投資案件を経営陣に説明すること、と定義したのです。
その新たな部署では、「戦略投資案件の確からしさ」を数字で説明する仕組みづくりを検討しました。わかりにくい戦略投資を経営陣に説明するためには、言葉ばかりでなく数字をうまく活用し、更に、分析チャートによって直感的に確からしさを説明すべきであると考えたからです。
そこで採用されたのが、ビジネスシミュレーションソフトです。現場の負荷を最小にすべく、Excelシートに簡単な設定を行うだけで利用できるビジネスシミュレーションソフトを導入し、稟議案件に感度分析・リスク分析を必須とするように戦略投資の評価プロセスを刷新しました。
効果としては、まず、稟議前に現場における検討が深まるようになりました。自分達で分析・シミュレーションを実行すると、経営陣からの質問が予想できるようになってきたのです。当初の目的である、経営陣への説明も着実に改善し、経営陣の意思決定に大きく貢献しています。