1,600万のニューロンと40億のシナプスに相当する処理を行う
「IBM TrueNorth」と呼ばれる画期的なニューロシナプティック・コンピューター・チップをもとにした拡張性のあるプラットフォームは、1,600万のニューロンと40億のシナプスに相当する処理を行い、16個の「TrueNorth」チップに対して、わずか2.5ワットというタブレット・コンピューター並みの電力しか消費しないという。
IBMニューロモーフィック・システムの脳のようなニューラルネットワークのデザインは、パターン認識や統合感覚処理といった複雑なコグニティブ・タスクを、従来のチップよりもはるかに効率的に推論することができる。
この新システムは、米国国家核安全保障庁(NNSA:National Nuclear Security Administration)のミッションであるサイバー・セキュリティーや国家の核抑止力、ならびに核不拡散の責務を担う上で重要な、新しいコンピューティング・ケーパビリティーを研究するために活用される。
NNSAの先進シミュレーションおよびコンピューティング(ASC:Advanced Simulation and Computing)プログラムは、機械学習アプリケーション、ディープ・ラーニング・アルゴリズムおよびアーキテクチャーを評価し、汎用的な計算の実行可能性の研究を行う。ASCは、地下核実験を伴うことなく国家の核抑止力の安全性や信頼性を確保するためのNNSAのストックパイル・スチュワードシップ・プログラム(Stockpile Stewardship Program)の礎石だとしている。
70年におよぶコンピューター・デザインから根本的に脱却するテクノロジー
このテクノロジーは、過去70年にわたって普及してきたコンピューター・デザインからの根本的な脱却を象徴し、今日の最も先進的なペタフロップ(1ペタフロップ:1秒間に1000兆回の浮動小数点演算)システムよりも、50倍(あるいは2桁の規模)高速なエクサスケールの速度で機能する次世代スーパーコンピューターの開発を強力に補完するものとなる可能性があるという。ニューロシナプティック・システムは、人間の脳のように、わずかの電力と容積しか必要としない。
1個の「TrueNorth」プロセッサーは、54億個のトランジスターで構成され、それらがワイヤー接続されて100万のデジタル・ニューロンとなり、それらが2億5千6百万個の電子シナプスを経由して相互コミュニケーションを行っている。0.8ボルトで、70ミリワットの電力をリアルタイムで消費し、1秒あたり46ギガ・シナプティック・オペレーションを提供する。
これは、従来のコンピューターが同様のニューラル・ネットワーク上で推論処理させる場合よりも数桁のレベルでの低電力を実現している。「TrueNorth」は、米国国防省国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)の助成のもとで、コーネル大学と取り組んだSystems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics(SyNAPSE:神経形態学的電子工学システム)プログラムにおいて当初開発したものだという。
契約に基づき、ローレンス・リバモア国立研究所は、16個のチップからなる「TrueNorth」システムを受け取る。このシステムは、1,600万のニューロンと40億のシナプスに相当する。また、ローレンス・リバモア国立研究所は、人間の脳の機能でいう知覚、行動、認知に相当するものを模倣する省電力なマシンをつくり、プログラムするのを支援するエンド・ツー・エンドの開発エコシステムを受け取る。
このエコシステムは、シミュレーター、プログラミング言語、統合プログラミング環境、アルゴリズムのライブラリーならびにアプリケーション、ファイヤーウォール、ディープ・ラーニング用にニューラル・ネットワークをつくるためのツール、教育用カリキュラム、クラウド・イネーブルメントから構成されている。
ローレンス・リバモア国立研究所のコンピューター・サイエンティストは、IBMリサーチ、米国エネルギー省の施設中のパートナー、そして大学とともに、ニューロシナプティック・アーキテクチャー、システム・デザイン、アルゴリズム、ソフトウェア・エコシステムの最先端研究分野を広げていくとしている。
ローレンス・リバモア国立研究所は、1952年に創立された米国の最も重要な国家安全保障に関する課題に対するソリューションを、科学、エンジニアリング、テクノロジーのイノベーションを通じて提供している。