“インフラ”としての「ブロックチェーン」への世界的な期待の高まり
「ビットコイン」と聞けば、日本ではビットコインの両替所を運営していたMt.GOXが大量のビットコインを紛失して破綻した事件を思い出す人も多いだろう。この件でビットコイン自体が破綻した、もしくは価値が失われたと考えている人もいるかもしれない。しかし上記の事件はビットコインを管理する両替所の一つで起こった事件であり、ビットコインそのものの問題ではない。ビットコインは、実に登場から7年もの間、一度もダウンすることなく24時間、365日稼働しつづけているのである。このように長期的にダウンしたことのない情報システムは世界的にも稀有な存在である。
実は、このビットコインを支えている仕組みが「ブロックチェーン」と言われるものである。詳しい仕組みは次回以降で解説するが、その要素を簡単に述べれば、人やモノと「情報資産」を強力に結びつけ、その情報資産の取引記録を繋げていくことで改ざんを防ぐ。そして、こうした情報資産の管理をP2P(ピアツーピア)、すなわち不特定多数のコンピュータで行うのが特長だ。そのため、ビットコインのようなゼロ・ダウンタイムのシステムが、特定の巨大なコンピュータを導入することなく、実現されているのである。
ここで管理の対象となる「情報資産」は、何もビットコインのような通貨だけには限らない。様々なデジタル化された著作物はもちろんのことだが、不動産や自動車などの実態のある資産であっても、それらを識別する情報によって管理することができる。あるいは、コンピュータ・プログラムなども、ブロックチェーンで管理できる「情報資産」になるのである。すなわち、デジタル化が進んだ現代社会においては、あらゆる資産がブロックチェーン上で管理できる可能性があるといっても過言ではない。さらには、ブロックチェーン上でコンピュータ・プログラムを実行することもできるようになりつつある。ブロックチェーンは単に「情報資産」を管理するだけでなく、プログラムを実行するためのコンピューティング基盤ともなりつつあるのだ。
このような汎用性を背景に、ブロックチェーンへの注目は世界的に高まっている。筆者は2016年5月2日から4日まで米国・ニューヨークで開催されたブロックチェーンのカンファレンス「Consensus 2016」に参加したが、世界40カ国以上から、1300人を超える多くの参加者が集まった[1]。その中には、開発者、IT企業、一般企業、金融機関など様々な立場の人が含まれている。また、世界中で暗号通貨・ブロックチェーン関係のベンチャー企業への投資は膨らみ続け、現在までに11億ドル(約1177億円)に達している[2]。これは英国におけるベンチャー企業への年間投資額に相当する[3]。
ブロックチェーンの現在の状況をインターネットの黎明期に例える人も多い。初期のインターネットは大学などを中心に限られたコンピュータがつながり、情報のやり取りを行っていた。最初は何に役立つか、はっきりとはわからなかったインターネットだが、その後の発展をみれば、インターネットがインフラとして大きく成長し、その後の経済を大きく変えたのは間違いないだろう。ブロックチェーンも、現在のところはどう役立つか不透明な面も大きい。しかし、ブロックチェーンもインフラとして成長していけば、これから多くのビジネスを生み出すだろうというわけだ。