生命の進化を決める3つの力
本書は進化の創造を推し進める力を、次の3つにまとめている。
- 機能的適応性
- 歴史的偶発性
- 構造的必然性
生命は「負の制約」による制限の範囲で、淘汰に基づく機能的適応と、偶発的におこる突然変異の歴史の連続を経て進化する。しかしながら大きな流れにおいては「正の制約」、つまり「自己組織化する複雑性の持つ内的な慣性」が、必然的な構造を決める。
本書は、時計を巻き戻してやり直しても、細部は異なるかもしれないが、巨視的には必然的な構造が顕れると主張する。
この「時計を巻き戻す」について、ミシガン州立大学の実験も紹介されていた。シーケンシング技術と遺伝子クローニング技術により細菌の進化を何度も再現する実験だ。実験では、進化を何度行っても、正確な遺伝子コードは異なるものの進化系統は収束し、表現形(細菌の外観)としては同じものが現れたという。
生命が偶然なのか必然であるかは長く議論される問題だが、本書はこの問いに対して「生命は必然的な不可能」と答えている。太古の海を漂う元素が人間に辿り着くのは、まさしく不可能な確立である。しかしながら進化は方向性を持つため、やがて必然的に人間までたどり着く。素晴らしい表現だと思う。
本章の中で一番の驚いたのはDNAだ。私は人間について、数ある可能性の中の1つが偶然進化できただけ、と考えていた。DNAについても同様だ。ところが本書を読むと、DNAは、自己増殖能力を考えれば宇宙の中でも最も効率が高く、我々は得るべくしてDNAを得たことがわかる。本書は、宇宙人がいたとしても、彼らはDNAとほぼ類似したものを持つはずだと指摘していた。
そして情報システムとしてのDNAは、やがて細胞や身体を獲得し、ヒトに進化して「言葉」を生む。言葉を端に発するテクニウムの進化にも方向性があるのか、というのが本書の最大のテーマだ。