イノベーションには固有の順番がある(本書第7章・9章より)
本書はテクニウムについても、生命の進化と同じように「必然」があると考える。我々が普段手にするテクノロジーは、生まれるべくしてこの世に現れたのだ。
電話を生んだのはグラハム・ベルか?
電話の発明者グラハム・ベルと、同日に特許出願したエリシャ・グレイの逸話は有名だ。グレイは特許庁への申請がベルに2時間遅れ、電話の発明者の名誉を逃した。グレイの身になってみるととても悔しい。が、本書はこの事例について、ベルとグレイよりも3年前に少なくとも3人が実際に動く電話を作っていたことを明らかにする。
電話はベルやグレイ、そして上記の3人の発明者がいなければ、この世には存在しなかっただろうか。本書は、彼らのすぐ後代に控えたエジソンや誰かしらが、いずれは電話を誕生させただろうと指摘する。
電話は、グラハム・ベルや、特定の発明者がいたからこそ生まれ得たのだろうか。それとも電話は20世紀という時代に生まれるべくして生まれ、その生みの親が誰であるかは実は大きな問題ではなかったのではないか。
本書はベルの事例だけでなく、黒点の発見、アドレナリンの分離、電信、対数、タイプライター、アルミニウムの電気分解、映画、などなど数多くの「同時発明」の事例を紹介していた。原子爆弾を実現にする基本公式は、第二次大戦下で各国が機密として並走研究していたが、7つの国でそれぞれ独自に「発見」されたという。
イノベーションには順番がある
本書が紹介する中でも重要な研究となるのが、考古学者ジョン・トロエンによる有史以前のイノベーションの分析だ。
トロエンは有史以前に起きたイノベーションのうち、アフリカ、西ユーラシア、東アジアの3つの地域で共通して起きたものを数えた。その結果、53のイノベーションが共通して、かつ各地域で独立して発明されていたことがわかった。
注目なのは、53のイノベーションが生み出された順番だ。3つ地域間で比較すると、相関係数は0.93という高い値を示したという。つまり、当時交流のなかった離隔した3つの地域で、53のイノベーションが、ほぼ同じ順序で起こされていたわけである。
この研究の結果から本書は、イノベーションやテクニウムには事前に決められた固有の順番があるとする。
つまり、それ以前のテクノロジーによってすべて必要な条件が揃えられたときに、新しいテクノロジーが生じるということを意味しているだけなのだ。「必要条件となる知識や道具が整ったときに、発見は事実上必然となる」と、同時に起きた発明を研究した社会学者のロバート・マートンも言っている。
本書は、あまりに未来的で先を行き、常識的でない発明は、基本的な材料や受け入れる市場、正しい理解がないため、環境が追いつくまでは成功できないと指摘する。例えばタブレット型の無線通信表示端末はiPad以前にも発明されていたが、早すぎたのか、今日まで続くことはなかった。