「世界の1%の人が残り99%より多くの富を所有する世界」──貧困が生まれる原因は経済システムにある
ユヌス氏の書籍のタイトル『3つのゼロの世界』は、「貧困ゼロ、失業率ゼロ、CO2排出ゼロという3つのゼロが生まれる世界」を表している。2010年のオックスファム(世界90カ国以上で貧困を克服しようとする人々を支援し、貧困を生み出す状況を変えるために活動する国際協力団体)の報告では、世界の最も裕福な“超特権者”388人が、世界人口の下位半分、約33億人よりも多くの富を所有しているとされていた。しかし、2017年には、この超特権者は8人に減り、下位半分の人数は36億人に増えている。世界の1%の人が残り99%より多くの富を所有する世界になっているという報告もある。
世界中の経済格差は確実に広がっている。それに伴って、当然ながら貧困層というものも増えている。そんな中で貧困ゼロの世界を生み出すにはどうしたらいいのだろうか。
講演はユヌス博士のグラミン銀行創設前後の経験から始まった。グラミン銀行はバングラデシュにある銀行で、貧困層を対象に無担保の少額融資 (マイクロクレジット) を専門に行っている。従来の金融業界では貧困層への融資は行われない。なぜなら、貧困者には信用力がないとされているからだ。そのため、貧困にある人々は高利貸しに融資を求める。
ユヌス氏は語る。
高利貸しは、少額の融資をしておきながら、利子によってその貧しい人の持っているものを全部奪い取っていってしまうのです。そして貧しい人々を“奴隷状態”に置いてしまう。私は教えていた大学の隣にある貧しい村の女性をなんとか高利貸しから保護したいと考えました。
ユヌス氏はポケットマネーからお金を貸し始めた。1976年のことだ。これがグラミン銀行誕生の出発点になった。現在、900万人以上の人々がグラミン銀行から融資を受け、そのうちの97%が女性である。女性の比率がここまで高いのは、特にバングラデシュの場合、従来の銀行が男性を主に融資の対象にしているからであり、女性に融資をすると家族全体が潤う結果になるからだ。
銀行というのは“経済的な酸素”を提供するものだとユヌス氏は言う。酸素を提供すれば、自分のビジネスを作る才能が湧き出てくる。しかし、従来の銀行は貧しい人々、特に女性には酸素を送らない。逆に高利貸しがさらに貧しさに拍車をかける。貧しい人々が貧しいのは、その人たちがあえてそうしているからではない。経済システムが悪いからなのだ。これは何も、バングラデシュに限った話ではない。先進国であっても街に高利貸しがいるならば、同じ状況である。
マイクロファイナンスで現在3億人の貧しい人々が融資を受けている。これは福祉や寄付のプログラムによる救済措置よりもずっといい。なぜなら、福祉や寄付が当たり前になってしまうと、次の世代以降も含めてそのシステムから抜け出すことができなくなるからだ。融資を受け、自分でビジネスを作り出すことは、貧困の連鎖から抜け出る道を作る。