競合調査の前に必要な「誰の、どんな困りごとを解決するのか」の明確な定義──アイデア創出以降にこそ必要な視点
前回の記事でも解説したように、「顧客への深い共感による洞察」と「正しい問題定義」が伴わなければ、どんなに斬新でおもしろいアイデアも、ビジネスにおいては価値をもたらすことはありません。新事業開発においては、顧客がお金を払ってでも解決したい課題、もしくは既存のサービスでは未だ解決されていない領域を見つけ出し、自社の新規サービス/製品がそれを解決する最良の方法であると顧客に認識してもらうことで、初めて市場を獲得できるのです。
事業戦略を組み立てる段階で、競合調査は重要なファクターとなります。しかし、顧客を深く理解しないアイデアが先行するような状態で競合調査に取り組めば、誰も欲しがっていないサービスを結果的に世に出してしまうことになりかねません。前回紹介した女性専用のフィットネスクラブ「カーブス」は、変わらない体型を直視するストレスや、男性の目に晒される気恥ずかしさといった、ターゲットである中高年女性が抱える言語化されない痛みを解消するサービスを実現したことにより、多くの顧客の支持を得ています。アイデア先行の競合調査では、“鏡のないフィットネスジム”というアイデアは出てこなかったはずです。
顧客視点が重要であるということは当たり前にわかっているつもりでも、開発プロセスが進むにつれて顧客視点がおざなりになるケースが少なくありません。これを回避するためには、顧客の世界入り込み、十分な洞察と共感から「誰の、どんな困りごとを解決するのか」を明確に定義し、アイデア創出以降のプロセスでもその視点を持ち続けることが必要不可欠です。
サービスデザイン/新事業開発では、視野の「発散」と「収束」を繰り返すことにより、UX(顧客体験)が最適化されたサービスを、順を追って具現化するプロセスを辿ります。
- 発見(拡散):対象となる顧客の世界観を顧客目線で体験し、顧客の生活の中にある文脈から事業機会を発見します
- 定義(収束):収集した情報を集約し、現場の文脈から明らかになった課題の仮説を定義します
- 展開(発散):定義した顧客の課題を解決するためのアイデアを多面的に創造します
- 実現(収束):アイデアの妥当性を検証し、顧客への貢献度・経済的実現性・技術的実現性を加味して具体的なアイデアに絞り込みます
上記のようなデザイン思考をはじめとしたイノベーション創発のためのフレームワークを活用することで、単に運任せで“偶然の産物”をやみくもに探るのではなく、体系化された手法と人間本来が持つ創造性を最大化するアプローチで戦略的にイノベーション創発を促進することができます。