政治的な混乱で人々の関心が「都市」や「地域」に向かうアメリカ──デトロイト市長がまず取り組んだ「アーバンデザイン」
スティーブン・ルイス氏(デトロイト市都市計画局、以下敬称略):日本には初めて来たのですが、今回は京都と東京に立ち寄りました。日本はいい国ですね。豊かな文化があって、それが人々の価値観や社会に反映されていると感じました。細部に意識を向けたり、周りを尊重したりといった文化が何世代にも渡って人々の意識に染み込んでいて、デザインやコミュニケーションの下地になったりしているのかなと、感じます。
佐宗邦威氏(BIOTOPE 代表取締役社長、以下敬称略):そうおっしゃっていただけると嬉しいです。
ルイス:残念ながら、アメリカにはそういったものがありません。そして現在、ご存知の通り政治が混乱していて、利害が一致せず、アイデアがあってもそれが妥協点や合意点に辿り着かないんです。そこで人々の関心が「国家」から薄れ、逆に自分たちがコントロールしやすい「都市」や「地域」に向かっているという流れが起こっています。
入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授、以下敬称略):政治的な変化、混乱によって「人々の意識がローカルに向かっている」ということですね。日本でも2011年の東日本大震災後、同じように人々の関心がローカルに向かったと私は理解しています。ルイスさんの今日のお話は、日本のローカル再生にも示唆がありそうだと、期待しています。
佐宗:アメリカのような大きな政治分断の結果、逆にローカルに意識が向くとは社会が持っているある種の“自己浄化システム”のようなものなのかもしれませんね。今、日本にいてもデトロイト市が復活を遂げつつあるということが聞こえてきます。
一方、日本でも地方都市で大きな人口減少に直面していますし、今後消失していく集落も増えていくと言われています。その中で、一部の若い人が地方に新たなモデルを作ろうという動きも起こっています。あの、デトロイト市が再生に向かっているという現状は多くの日本人に希望とインスピレーションを与えると思うのです。いったい、デトロイトでは何が起こっているんでしょう?
ルイス:ここで『人々の意識が変わって、ボトムアップでデトロイトの復活が始まったんですよ』とかっこよく言えればよかったのですが、実際のところ、デトロイトの再生の始まりは、2014年に選出されたデトロイト出身で弁護士のマイク・ダガン市長の主導によって始まったものです。でも、デトロイト市の場合はそれも自然なことだろうと思います。40~50年間、都市の衰退にもがき続けてきた結果、人口流出も激しく、人々の市政に対する期待もとても低いところからのスタートだったのです。
ダガン氏は、市民が市長というものにすでに期待しなくなっていることを知っていたので、選挙前に300以上の家庭を無作為に訪れて、直接対話を行いました。膝を突き合わせて話をすることで信頼を勝ち取り、市長に選ばれたのです。その結果ダガン市長は、今までの市長とは真逆の方針である、「デトロイト市に人口を取り戻す」ということを始めました。そして、そのために必要だったのが「アーバンデザイン」なのです。