なぜいま「カスタマーサクセス」なのか──「青本」で押さえておくべき原則を実践者が語る

 B2B業界やクラウドIT業界を中心に注目されている、顧客との関係構築の新しい手法「カスタマーサクセス」。6月には『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(英治出版)が発売され、カスタマーサクセスの「青本」として、多くのビジネスパーソンに読まれている。
 7月31日には、Nagatacho GRIDで『理論と実践から学ぶカスタマーサクセスの基本』が開催され、Sansan株式会社の小川泰正氏、バーチャレクス・コンサルティング株式会社の辻大志氏、英治出版株式会社の高野達成氏が登壇した。本記事ではこの3名がおこなったパネルディスカッションの様子をお届けする。

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[取材・構成] 梶川 元貴(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 サブスクリプション カスタマーサクセス Sansan

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消費モデルや顧客維持の関係性が変化し、成功体験を与え続けなければならない時代に

 『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の翻訳も担当したバーチャレクス・コンサルティングの辻氏は「これまではサービスの金額や償却期間によって顧客との関係を長期的に維持できていたが、現在は顧客がおこなっている事業の成功体験によって顧客との関係を維持しなくてはならなくなっています」と話す。

 なぜ成功体験によって関係を維持しなければならないのかについて「自社内で運用するオンプレミス型のITシステムを導入した場合、これまでは数年間減価償却として使い続ける必要がありました。しかし、現在はクラウド型へ移行し月額制で利用することができるようになっています。さらに切り替えコストが下がっており、顧客はほかのサービスに簡単に乗り換えることができるようになりました。そのため、顧客維持のためにそのシステムを使った事業の成功体験を与え続けなければならなくなったのです」と説明する。

バーチャレクス・コンサルティング株式会社 執行役員 辻 大志氏バーチャレクス・コンサルティング株式会社 執行役員 辻 大志氏

 『カスタマーサクセス』を発行している英治出版の高野氏は、カスタマーサクセスの流行は長い時間軸でみて、大きなパラダイムシフトの中にあると話す。

 1943年に発表されたマズローの自己実現理論が下敷きになり、1960年にマグレガーのXY理論が発表された。この考えによって、社員とは責任を負う主体的な存在であるという社員像の転換が起こった。それを顧客像の転換に応用したのが2005年に発表、2006年に日本で発売された『アドボカシーマーケティング』(英治出版・刊)だ。今までは、顧客は受動的で、企業はプッシュ型のマーケティングをすればいいとされていたが、本当は能動的に情報を選択しており、顧客とは支援の対象であるという考えが広まっていった。インターネットよって企業と顧客のパワーバランスが変わり、その潮流が「カスタマーサクセス」に集約されていったのだと説明する。

英治出版株式会社 取締役 編集長 高野 達成氏英治出版株式会社 取締役 編集長 高野 達成氏

 『カスタマーサクセス』は2016年に原書が発売されており、日本語訳版の発売は2年遅れになっている。この2年間のギャップについて、カスタマーサクセスソリューションを提供するGainsight主催のPulseというイベントに参加した辻氏は「2年の差をすごく感じました。アメリカのカスタマーサクセス担当者たちの議論の内容は、実践的、具体的になっていました。もうアメリカの企業では、カスタマーサクセスの運営は定着しており、自分たちの行動や結果を見える化するところに議論が移っているように感じた」と語る。

 辻氏と共に上記のイベントに参加したSansanカスタマーサクセス部部長の小川氏は、「2013年のイベントでは約400人だったのが今年は約5,000人で、そのうち8割がアメリカから来ていました。そこでは自分たちが新たなマーケットを作っていくという強い意気込みを感じました」と語る。

 アメリカでカスタマーサクセスについての熱気を感じてきている小川氏だが、Sansan社内では2012年から「カスタマーサクセス」という表現を使っているという。クラウドのサブスクリプションモデルで新規顧客を獲得しても、解約率が高ければ、それは穴の開いたバケツと同じだから、マーケティング戦略として顧客をフォローしていかなければならない、としている。

Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 部長 小川 泰正氏Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 部長 小川 泰正氏

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