コミュニティの原点は「共感」を軸とした“二人で一人の天才”から
前編で伊丹氏は日本企業の復調について語り、その背景に「日本的経営の見直し」として人本主義への回帰があると述べた。そして野中氏は日本的経営の強みとして提唱する「SECIモデル」の共感を軸にした実践について、京セラの事例を紹介しつつ説明した。対して、ミンツバーグ氏は世界の変化に対応するために不可欠とされるバランシングについて語り、バランスの重要なカギを握るNPO/NGOなどの第三セクターが企業や政府に内在していることを指摘。「バランス感覚において日本はベストなのではないか」と評価した。
「賢明な会社・組織は既に第三元的なコミュニティシップを取り込んでいる」と語るミンツバーグ氏に対し、野中氏は「1つだけ、コミュニティの概念について違和感がある」と語る。あくまで企業もコミュニティであり、究極には「最小単位の二人が重要」とする考え方だ。
ホンダの本田宗一郎氏と藤沢武夫氏、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏の例を挙げるまでもなく、組織体のイノベーションは、常に“ペア”、つまり二人称の確立を起点に行なわれる。近年、アジャイル・スクラムという開発手法が一般化しつつある。これはトヨタ生産方式にもヒントを得ているが、ベースにある考え方はわれわれの組織的知識創造のモデルである。その中核にあるのが“共感”であり、その共感をつくる原点こそ『ペア・ワーク(アジャイル・スクラムではペア・プログラミングを行う)』なのだ。ペアでの緊張感ある対話によって自己認識が起きると同時に、個人の思いが我々の思いになり、三人称へと発展し、価値創造へと向かっていく。(野中郁次郎氏)
そして野中氏はホンダジェットの開発現場でのエピソードを紹介。プロジェクトリーダーが一人ひとりと正面から向き合い“知的コンバット”を行ない、共感を得ながら次々にペア、そしてその連鎖をつくっていくことが強いコミュニティの核となるとした。
伊丹氏は「野中さんの語るコミュニティのでき方については、私も共感するところがある」と語り、「いかなるコミュニティもいつのまにかできている。まるで動物の本能のようなものではないか」と評した。
そして、ある企業のトップに「従業員の首を切って評価される米国の経営者と同じように私達を見てほしくない」といわれたことを紹介。「コミュニティを維持することは、単に仲が良いだけでなく、アイディアやイノベーションが生まれてくる土壌づくりでもある。その方は本質的な価値をわかっておられると思った」と語った。