本レポートでは、世界100以上の都市を対象にイノベーションと人材の集積を定量化し、分析。その結果、イノベーションエコシステムの形成度が高く、人材が集積している都市は、過去20年間における経済成長が著しく、更には、上位に入る都市は、過去10年間のオフィス賃料上昇が著しく、不動産投資をより多く呼び込んでいることから、イノベーションならびに人材の集積と不動産市場のパフォーマンスとの間には密接な関係があることが明らかになったとしている。
レポートハイライト
■イノベーション
「イノベーション都市 世界上位20都市」を見ると、グローバル各地域に分散されている。上位10都市には、最もグローバル化した都市「確立された世界都市」の「ビッグ7」と「挑戦者たち」に分類された8都市がランクインしている。
1位は、世界有数のスタートアップシティであるサンフランシスコ、2位東京、3位シンガポール、4位北京、5位ロンドンとなり、アジアパシフィック地域の都市が存在感を高めている。北京にはイノベーションエコシステムが深く根付いており、シリコンバレーを除けば最も多くのユニコーン企業を輩出、ベンチャーキャピタル投資額で第3位の規模となっている。
■人材の集積
人材の集積度が高い都市は、都市や教育制度がより成熟した米国、欧州、オーストラリアの都市がランクインしている。
1位はロンドンで、世界トップレベルの大学や教育水準の高い労働力に支えられている。2位サンフランシスコ、3位ワシントンDC、4位サンノゼ(シリコンバレー)、5位シアトルとなり、米国の都市が上位を独占している。3位のワシントンDCは、ハイテク製品やサービスに対する連邦政府の需要にも下支えされ、イノベーション産業の就業者の割合が突出している。ボストンやサンフランシスコのベイエリアには世界トップレベルの大学が所在することが、両都市を上位に押し上げている。
アジアパシフィック地域からは、7位シドニー、10位メルボルンに続き、19位に東京がラインクインした。シドニー、メルボルンは魅力的なライフスタイルが人口構成を改善させており、ランキング上位の大学の集積や高度な能力を有する労働力が相まって、人材のホットスポットとして世界的に見ても競争力の高い都市となっている。東京は19位にとどまり、人口構成の弱みが上位入りを阻んでいる。
■イノベーションと人材の集積のクラスター(分布)
都市のイノベーションと人材の集積に関する分析を行い、6つのタイプに分類。
ケーススタディ:グローバルリーダー都市
東京:グローバルなイノベーションハブ
イノベーションのグローバルリーダーである東京は、特許申請件数が世界第1位の都市であり、第2位の深センを80%超上回っている。東京は電子機器からナノテクノロジーまで幅広いテクノロジーで市場をリード、またソニー、ソフトバンク、トヨタを含む世界的企業の拠点を世界で最も多く擁する都市でもあり、これにより対内直接投資や研究開発費が押し上げられている。
東京は企業全般に関する項目ではトップランクに位置しているものの、より活発なスタートアップ文化の醸成に注力する必要がある。東京発のユニコーン企業はPreferred Networks社の1社に限られており、スタートアップ企業数において、競合都市に後れをとっている。
イノベーションを基盤とした経済の発展の勢いは注目を集めており、クロスボーダーの不動産投資家の新たな関心を呼んでいる。オフィス空室率も1%とテナント需要は旺盛で、堅調なオフィス賃料の上昇がその魅力を一層高めている。
不動産市場に与える影響
世界の商業用不動産投資の約四分の三は、イノベーションクラスターの上位クラスターであるグローバルリーダー都市、イノベーション型の都市、人材型の都市に集中しており、投資資金がイノベーション型の都市へ流入している。
イノベーション並びに人材と賃料上昇に強い相関があり、投資家が強い関心を示している。 都市類型上位3つのオフィス賃料上昇率は平均値よりも良いパフォーマンスを示しており、またトータルリターンも高くなる傾向にある。